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前世でフラれた初恋の人と両想いになりたくて転生したら、彼女を口説く別の転生者が現れた件

作者:



目が覚めると、俺はなぜか大学の寮の部屋にいた。


「ここは...」


鏡を見て驚いた。若い。

20歳くらいの自分が映っている。


俺の名前は柊陽介。20歳の大学生。


でも、本当の俺は違う。

前世で38歳まで生きていた、地味なサラリーマンだった。


そして、前世で最も後悔していることがある。


初恋の人、天音莉子に告白して、振られたことだ。


「今度こそ...」


俺は決意を固めた。

転生したなら、今度こそ莉子と両想いになる。


前世では内気で、莉子にうまく話しかけることすらできなかった。

告白も、卒業式の日にようやく勇気を出したが、「ごめんなさい、友達としか見れない」と言われた。


「今度は違う」


俺には38年分の人生経験がある。

前世より、少しは成長しているはずだ。


大学に行くと、前世の記憶が蘇ってきた。

この大学で、俺は莉子と出会ったんだ。


「あの教室だ」


美術学部の教室。

莉子は画家志望で、いつもここで絵を描いていた。


ドアを開けると、そこに彼女がいた。

長い黒髪、優しい笑顔、絵筆を持って夢中でキャンバスに向かっている姿。


全て、前世で見た彼女と同じだった。


「あの...」


俺が声をかけると、莉子が振り向いた。


「はい?」


「その絵、すごく綺麗ですね」


「ありがとうございます」


莉子が微笑む。

その笑顔に、俺の心臓がドキドキした。


「あなたは...」


「柊陽介です。経済学部の1年生です」


「私は天音莉子。美術学部の1年生です」


前世と同じ出会い。

でも、今度は違う。


「莉子さん、よかったら今度、一緒にランチでもどうですか?」

前世では絶対に言えなかった言葉だった。


「え?」

莉子が少し驚いている。


「あ、いや、無理にとは言わないんですけど...」


「いいですよ」


「え?」


「一緒にランチ、しましょう」

莉子が笑顔で答えてくれた。


俺は信じられなかった。

前世では、こんな風に簡単に誘えなかった。


「本当ですか?」


「はい。面白そうな人ですね、柊さん」


「ありがとうございます」


翌日、俺は莉子と学食でランチをした。


「柊さん、どうして美術学部の教室に来たんですか?」


「綺麗な絵が見たくて。美術って、すごく興味があるんです」


前世の記憶で、莉子の好きな画家や、芸術の話題を知っている。


「そうなんですか。じゃあ、今度展覧会とか行きませんか?」


「展覧会?」


「はい。来月、市立美術館でモネ展があるんです」


俺は前世の知識で、この展覧会が大成功することを知っていた。


「モネ!行きたいです」

莉子の目が輝いた。


「じゃあ、一緒に行きましょう」


「はい」


順調だった。

前世とは全然違う。


友達の藤崎真帆にも報告した。


「陽介、すごいじゃん。可愛い子と仲良くなって」


「まあね」


「でも、焦らないでね。ゆっくり距離を縮めないと」


「分かってる」


俺には38年分の経験がある。

焦らず、ゆっくりと莉子との関係を深めていく。


でも、その時俺は知らなかった。


予想外のライバルが現れることを。




モネ展の日、俺と莉子は美術館で待ち合わせた。


「柊さん、お待たせしました」


莉子が笑顔で現れた。

今日は可愛いワンピースを着ている。


「可愛いね」


「ありがとうございます」

莉子が少し頬を赤らめる。


美術館の中で、俺たちは絵を見て回った。


「この絵、すごく綺麗...」

莉子が感動している。


「睡蓮の絵、有名ですよね」


「はい。モネの代表作です」

俺は前世の知識で、モネについて色々話した。


莉子は楽しそうに聞いてくれる。


「柊さん、詳しいですね」


「こういった芸術が好きなんです」

嘘じゃない。

前世で、莉子のために芸術について勉強したから。


その後も莉子が持ってきていたスケッチブックの絵を見せてもらったり、有意義な時間を過ごした。


美術館を出た後、俺たちはカフェでお茶をした。


「今日は楽しかったです」


「俺も」


「また一緒に、色々行きたいですね」


「もちろん」


莉子が嬉しそうに笑う。


その時、カフェのドアが開いて、一人の男性が入ってきた。

背が高く、イケメンで、雰囲気も洗練されている。


男性が俺たちのテーブルに近づいてきた。


「天音さん?」


「え?」

莉子が驚く。


「私、御厨奏といいます。先ほど通りがかった時、あなたが描かれていた絵を見ました」


「私の絵?」


「はい。そちらの方とお話しされている際にスケッチブックから少し見えていて...素晴らしい絵でした」

御厨が爽やかに笑う。


「もしよろしければ、今度一緒に展覧会巡りでもしませんか?」


「え、でも...」

莉子が戸惑っている。


「あ、邪魔でしたか?彼氏さんとデート中でしたね」


「い、いえ、彼氏じゃなくて...大学のお友達で…」

莉子が慌てる。


俺は複雑な気持ちだった。


「それでは、これを」

御厨が名刺を渡す。


大学生なのに名刺を持っているのか。


「連絡お待ちしています」


御厨が去った後、莉子が困った顔をしていた。


「すごい人でしたね...」


「ああ」


俺は警戒した。

あの男、普通じゃない。


翌日、大学で御厨を見かけた。


「あ、昨日の」


「やあ、柊さんでしたっけ」

御厨が笑顔で近づいてくる。


「御厨さん、この大学の学生なんですか?」


「ええ。経営学部の2年生です」


「そうなんですか」


「柊さん、天音さんとはどういう関係なんですか?」


「友達です」


「友達...それなら、私にもチャンスがありますね」

御厨が意味深に笑った。


その笑顔には、何か計算高いものがあった。


「天音さん、素敵な方ですよね」


「ええ」


「私、彼女のことが気になってるんです」

御厨がはっきりと宣言した。


「だから、彼女を口説きます」


「え?」


「ライバル宣言ですよ、柊さん」


俺は驚いた。

なんて堂々としているんだ。


「でも...」


「大丈夫。正々堂々と勝負しましょう」

御厨が手を差し出す。


俺は仕方なく握手した。


その夜、俺は考え込んでいた。

御厨という男。

あの自信、あの話し方、あの立ち振る舞い。


まるで全てを知っていて、計算しつくしてしているような...


「まさか」


嫌な予感がした。

もしかして、御厨も転生者なのか?


翌日、御厨が莉子を映画に誘っていた。

「天音さん、今週末、新しい美術系の映画が公開されるんです」


「本当ですか?」


「ええ。一緒に見に行きませんか?」


「でも...」

莉子が俺を見る。


「柊さんも一緒にどうですか?」

御厨が俺を誘った。


「3人で行きましょう」


「...分かりました」

俺は断る理由がなかった。


週末、俺たち3人は映画館に行った。

でも、映画の内容より、御厨の言動が気になった。


「この監督、きっと来年ベネチア映画祭で賞を取りますよ」


「え?どうして分かるんですか?」


「なんとなくです」

御厨が笑う。


俺は確信した。

こいつは転生者だ。


来年の映画祭の結果を、まるで知っているかのように。


映画の後、俺は御厨に声をかけた。


「御厨さん、少し話がしたいんですが」


「ああ、私もです」


俺たちは人気のない場所に移動した。


「御厨さん、あなた...」


「転生者ですね?」

御厨が先に言った。


「やはり」


「柊さんも、ですよね」


「...ええ」


俺たちは互いの正体を明かした。


「前世では何歳まで生きました?」


「38歳です」


「私は42歳。先輩ですね」

御厨が余裕の笑みを浮かべた。


「それで、天音さんを巡って勝負ということですか?」


「ええ」


「面白い。転生者同士の恋のバトルですね」

御厨が楽しそうに言う。


「でも、前世の経験では私の方が上です」


「何?」


「私、前世では数え切れないほど女性と付き合いました」

御厨が自慢げに言う。


「恋愛のテクニック、心理学、全て知っています」


「それで?」


「対して柊さんは、恋愛経験が少なそうですね」


図星だった。

前世では、莉子以外に好きになった人はいなかった。


「勝負は見えています」

御厨が俺を見下す。


「でも、正々堂々とやりましょう。それが礼儀です」


俺は悔しかった。


確かに、恋愛経験では御厨に勝てない。

でも、俺には莉子への純粋な気持ちがある。


「負けません」


「ふふ、頑張ってください」

御厨が去っていった。


俺は一人、拳を握りしめた。



それから、御厨の攻勢が始まった。

莉子を高級レストランに誘ったり、有名な画家の個展に連れて行ったり。


「御厨さんって、すごいですね」

莉子が感心している。


「色々な場所を知ってるし、話も面白い」

俺は焦っていた。


御厨の完璧な立ち振る舞いに、どうしても敵わない。


「陽介、大丈夫?」

真帆が心配してくれる。


「最近、元気ないけど」


「ちょっとライバルが...」


「ライバル?御厨って人?」


「ああ」


「確かに、あの人すごいよね。でも」

真帆が俺を見る。


「陽介の良さは、優しさだよ」


「優しさ?」


「うん。計算じゃない、本当の優しさ」


真帆の言葉に、俺は少し勇気をもらった。


翌日、俺は莉子に声をかけた。


「莉子さん、今度の日曜日、時間ある?」


「はい、大丈夫です」


「公園で風景スケッチしない?」


「公園で?」


「ああ。天気も良いし、外で描くのも良いかなって」


莉子が嬉しそうに笑った。


「いいですね。行きましょう」


日曜日、俺たちは公園に行った。

莉子がスケッチブックを広げて、風景を描き始める。


「柊さんも描いてみませんか?」


「俺、絵は下手なんですけど...」


「大丈夫です。教えますから」


莉子が俺の隣に座って、描き方を教えてくれる。

その距離の近さに、心臓がドキドキした。


「こうやって、線を引いて...」

莉子の手が俺の手に触れる。


「あ、ごめんなさい」


「いや、大丈夫」

俺たちは顔を見合わせて、笑った。


「柊さんと一緒だと、楽しいです」


「俺も」


御厨みたいな完璧なデートじゃない。

でも、この時間は本当に幸せだった。


そんなことを考えている時、タイミングよく御厨が現れた。


「やあ、お二人とも」


「御厨さん...」


「偶然ですね」


偶然なわけがない。


「私も公園を散歩していたんです」


御厨が俺たちの絵を見る。


「天音さんの絵、素晴らしいですね」


「ありがとうございます」


「柊さんの絵は...まあ、頑張ってますね」


御厨が俺の下手な絵を見て、微妙な反応をする。

なんだかムカつくな。


「私、実は絵も描けるんです」


御厨がスケッチブックを取り出す。

そして、あっという間に風景画を描き上げた。


「すごい...」

莉子が感嘆の声を上げる。


御厨の絵は、本当に上手かった。


「前世で習っていたんです」


御厨が俺に向かって小声で言う。


「これも、恋愛テクニックの一つです」


俺は悔しかった。

何をやっても、御厨に勝てない。


その夜、俺は落ち込んでいた。


「このままじゃ、莉子を奪われる…」


でも、どうすればいいのか分からなかった。


翌日、意外な展開があった。

莉子が俺を呼び出したのだ。


「柊さん、相談があるんです」


「何?」


「実は、御厨さんにこの前告白されてしまって..」


俺の心臓が止まりそうになった。


「そうなんだ...」


「どうしよう、柊さん」

莉子が困った顔をしている。


「御厨さんは素敵な人だと思います。でも...」


「でも?」


「何か、よく分からないんです」

莉子が悩んでいる。


「御厨さんといると、すごく楽しいです。色々な場所に連れて行ってくれるし、話も面白い」


「それなら...」


「でも」


莉子が俺を見つめた。


「柊さんといる時の方が、心が落ち着くんです」


「え?」


「御厨さんは完璧すぎて、ちょっと疲れるというか...」

莉子が正直に言う。


「柊さんは、完璧じゃないけど、一緒にいて楽なんです」


俺は驚いた。

完璧な御厨より、完璧じゃない俺の方が、莉子は落ち着くと言っているのか。


「莉子さん...」


「柊さん、私、どうすればいいですか?」

莉子が助けを求めている。


俺は決心した。


「莉子さん、俺...」


「はい?」


「俺、莉子さんのことが好きです」

「ずっと好きでした。最初に会った時から」


「柊さん...」


「御厨さんみたいに完璧じゃないし、お金もないし、絵も下手です」


俺は正直に言った。


「でも、莉子さんのことを本当に大切に思っています」

莉子の目に涙が浮かんでいた。


「柊さん...私も」


「え?」


「私も、実は柊さんのことが好きです」


俺は信じられなかった。


「本当に?」


「はい。ずっと気づいてたんですけど、なかなか勇気が出なくて…」

莉子が微笑む。


「柊さんが、私のことを好きだって」


「どうして...」


「分かるんです。柊さんの優しさ、全部私に向けられてるから」

莉子が俺の手を握った。


「御厨さんは素敵な人です。でも、私が本当に好きなのは柊さんです」


俺は莉子を抱きしめた。


「ありがとう、莉子」


「こちらこそ」


前世では叶わなかった初恋が、今、実った。


翌日、俺は御厨に会いに行った。


「御厨さん、話があります」


「ああ、分かっています」

御厨が寂しそうに笑った。


「天音さんから聞きました。あなたと付き合うって」


「すみません...」


「謝らないでください」

御厨が俺を見る。


「あなたの勝ちです」


「御厨さん...」


「私、前世で恋愛をたくさん経験してきました」


御厨が話し始めた。


「でも、全部計算で成り立っていました」


「計算?」


「ええ。どうすれば女性が喜ぶか、どうすれば恋に落とせるか」


御厨が自嘲気味に笑う。


「テクニックばかり磨いて、本当の愛を知らなかった」


「そうだったんですか」


「前世で、私は孤独でした」


御厨が遠くを見る。


「たくさんの女性と付き合ったけど、誰も本当に愛せなかった」


「だから、転生して思ったんです」


御厨が続ける。


「今度こそ、本当の恋をしたいって」


「それで、莉子さんを...」


「ええ。天音さんは純粋で、優しくて...本当に素敵でした」

御厨が微笑む。


「でも、私はまた計算してしまった」


「御厨さん...」


「あなたは違った。本当に天音さんを愛していた」


御厨が俺の肩を叩く。


「だから、あなたが勝ったんです」


「ごめんなさい」


「謝らないでください。これで良かったんです」

御厨が空を見上げる。


「私も、いつか本当の恋をします」


「きっと見つかりますよ」


「ありがとう、柊さん」


俺たちは握手を交わした。


その後、御厨は新しい道を歩み始めた。

ボランティア活動を始めて、そこで一人の女性と出会ったらしい。


「柊さん、私、愛する人が出来ました」


数ヶ月後、御厨が嬉しそうに報告してくれた。


「本当ですか?」


「ええ。今度は計算じゃない、本当の恋です」

御厨の顔が、前より明るくなっていた。


「良かったですね」


「あなたのおかげです」


「え?」


「あなたに負けたおかげで、気づけました」

御厨が笑う。


「本当の愛は、計算やテクニックじゃなく、心だって」


「御厨さん...」


「ありがとうございました」

俺たちは再び握手を交わした。



それから一年が経った。


俺と莉子は、順調に交際を続けていた。


「陽介、見て」


莉子が新しい絵を見せてくれる。


「すごく綺麗だね」


「ありがとう。この絵の中の男の人は陽介がモデルなの」


「え、俺?」


「うん。いつも隣にいてくれるから、描きやすいの」

莉子が幸せそうに笑う。


「私、陽介と一緒にいられて本当に幸せ」


「俺も」


前世では、莉子に振られた。

でも、転生して、今度は莉子と結ばれることができた。


「莉子、前に聞きたかったことがあるんだ」


「何?」


「どうして前世...じゃなくて、最初の頃、俺のこと好きになってくれたの?」


「前世?」

莉子が首を傾げる。


「あ、いや、気にしないで」


「うーん、最初からだよ」


「最初から?」


「うん。陽介が美術学部の教室に来た時から」

莉子が微笑む。


「あの時、陽介の目がすごく優しかったの」


「そうだったの?」


「うん。私の絵を本当に褒めてくれて、嬉しかった」

莉子が俺の手を握る。


「それから、ずっと陽介のことが気になってた」


「そうなんだ...」


「だから、御厨さんに告白された時も、実は…迷わなかった」


莉子が俺を見つめる。


「私が好きなのは、陽介だけだから」


「莉子...」


俺は莉子を抱きしめた。


「俺も、莉子だけだ」


「ずっと一緒にいてね」


「もちろん」


窓の外には、桜が咲いていた。

前世で叶わなかった初恋。

でも、転生というチャンスをもらって、俺は莉子と結ばれることができた。


御厨というライバルもいた。

でも、それも含めて、良い経験だった。


「陽介、何考えてるの?」


「莉子と出会えて、本当に良かったって」


「もう、恥ずかしいこと言わないで」


莉子が頬を赤らめる。

でも、嬉しそうに笑っていた。


---


数年後。


俺と莉子は結婚して、幸せな家庭を築いていた。

莉子は画家として成功し、俺は彼女を支えながら、会社で働いている。


御厨も、ボランティアで出会った女性と結婚したらしい。


「柊さん、お久しぶりです」

久しぶりに会った御厨は、前より穏やかな表情をしていた。


「御厨さんも幸せそうですね」


「ええ。本当の愛を見つけました」

御厨が微笑む。


「あなたに負けて、本当に良かった」


「そんな...」


「本当です。あのまま計算だけの恋愛を続けていたら、今の幸せはなかった」

御厨が真剣な顔で言う。


「ありがとうございました」


「こちらこそ」


俺たちは笑い合った。


前世では、初恋に振られた。

転生して、ライバルも現れた。

でも、全てが良い方向に進んだ。


俺は莉子と結ばれて、御厨も本当の愛を見つけた。


転生して、本当に良かった。


今度は、莉子と一緒に、最高の人生を歩んでいく。


―完―

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