四話 粕田ワールド
「というわけなんだけど……」
「ふむふむ……つまり朝起きたら女体化していた、と……え?学校どすんの?」
「そう……問題はそこ……」
意外にも母は僕の話をすんなり信じてくれた。しかし僕にしか分からない問題や僕の好きなもの、などを小一時間問い続けたのは内緒のお話である。
「まぁ私に任せな!!武力でなんとかするわ!!」
母はこの町で万のモンスターペアレントを配下に置くいわばハデス的な存在。
気に食わない教師を集団で抹消した事件から教師という界隈では
畏怖の目で見られ、今でもその名は忘れられていない。
「さっすが母さん!!僕たちにできないことを平然―」
「受かれるのはまだ早い」
「何!?」
ざわ……ざわ……
「あんた今日は休みなさい……明日……明日何かが変わる!!みんな笑える……黙って私といればみんな笑える……幸せになれる」
ドドドドドドドドド……
次の日
「えーと、波亜怒雲中学校から来ました、吉良 義経です!よろしくお願いします!」
因みにこれ僕。
一人一人席を立ち、自己紹介をするなかただ1人僕だけが浮いていた。
女子の制服を纏い、髪を後ろで結われ、他の女子と
まるで変わらないが今の僕の美貌は性別に隔たりなく作用されているだろう。
視線を感じるなんてもんじゃなかった。
「じゃ、じゃあ吉良さん……よろしくなぁ……」
この僕の担任であり僕の正体を知る貴重な存在、後藤先生だ。
ハデスに何をされたのか分からないが、まるで腫れ物を扱うように僕に接する。
そして僕の隣の席に座る男子は実は幼馴染みであり、僕の数少ない友人だ。
彼には事情を説明しておいた方が学校生活も過ごしやすくなる。
「ねぇ粕田くん」
「な、なな何だ?」
美少女と話す機会の無い底辺で蠢く彼のことだ。
僕に話しかけられ緊張しているのさ!!バカな男めッッ!!僕は男さッッ!!
「実は僕、文鎮なんだ」
「ぶ、文鎮?」
説明しよう!
『文鎮』とは書道などでシワがつかぬよう紙に置く重石である。
「人間の方の文鎮だよ!」
説明しよう!
『人間の方の文鎮』とは僕があまりに貧乏で筆箱が買えず、
扇風機で飛んでしまうプリントを押さえるために用いていたのが
筆箱ではなく文鎮であり、そのことから周りから『文鎮』と
呼ばれるようになった僕が『人間の方の文鎮』である。
「き、吉良さんどしたの?」
まるで理解されていない……当然か……なら
「僕が好きな同人作家。エレクトさわる、武田弘光、睦茸、ハイパーピンチ、
酒呑童子、藤ます、うどんや、小梅けいと、ひかパン、みどりのルーペ、HEVEN'S―」
「どうした文鎮ッッ!今日は女の子コスプレか?」
満面の笑みを浮かべる彼に愛着さえ湧いた
「まあ実はかくかくしかじか……」
「なんだってェーーッッ!?」
…………………
「席に座れ粕田」
「はい先生」
「ってどういうことだ!?」
小声ながら語調は強い
「僕にも分かんない……」
「お前が文鎮だということは分かった。だが女の子だというのはまだ
確定していない。証拠として胸を見せてくれッッ!!頼む!!胸を見せてくれッッ!!
俺も見せるからァーーッッ!!」
粕田の魔手が僕の胸に伸びる。今までに無い恐怖が背筋をつたっていく
「ちょっ……粕田!!やめっ……い、イヤァァアアァ!!」
……………………
「粕田廊下に出とれ」
「はい先生」
「放課後残りなさい」
「はい先生……」
放課後
見事に僕は生徒に囲まれた。席を立つ間もなく男女の生徒が僕を円上に囲む。
各々が話をふってくるため混ざり、何を言ってるかまるで聞き取れない。
僕が抜け出そうともがくがなかなか出してくれない。中には勝手に携帯で写真を撮る奴が出てきた。普通は許可取るだろ!!
コスプレの方々を撮るときだってこの僕がでさえ許可を撮るのに
君たちは全くモラルがこのオラちくしょう!!
「神空蒼風流!!」
フワッと風が吹き気付けば僕はある男子の腕の中だった。
顔を見ようと上を仰ぐとそれは大層な美少年だった。
「俺は剣道の師範代でね、あの連中の中から免許皆伝を許された神空蒼風流を使って君を救ったのさ」
恩着せがましい口調に僕は察した。この子は僕の美貌にあてられ
あんな痛いワード発して実行したのか……アイタタタタ
僕が簡単に落ちると思うな?僕はイケメンが大嫌いさ!!死ねば良いッッ!!
一言で一蹴してやる
「あの私……帰る!!」
よくよく考えれば敵を作るメリットはない。出来るだけ
好印象は与えておけばいいんだ!!照れ隠しで逃げた僕に
乙女らしさを感じたろう!!陶酔しろ!!愚民どもがッッ!!
ダッシュで雑踏を走り抜ける。声を掛けられても、視線があっても
全部「さよなら」でフラグを断ち切るッッ!!
「あの乙女……なんて可愛いんだ……俺の彼女にするッッ!!俺の彼女すゥーーーーるゥーーッッ!!」
一方、粕田は
「この年頃ああいう欲求に駆られることだって多いだろう。先生はそれに対しては全く怒っていない。
だが自制ができないのはだらしないんじゃないか?そうだろう粕田?」
「……先生少し例え話をしようか」
「あれ?今先生きみを叱ってんだけど……」
「例えば……そうイグザンポー……先生はガチムチで男性だ……だから俺は
出来るだけ近付きたくないわけだ……その筋肉……決してステータスでない」
「いきなり先生罵っちゃうか……どうなのそれ」
「だが先生が美少女に変わったとする。それが先生だと知らないものは
こぞって先生を愛するが胸を見せてくれ、なんて誰も言わないだろうごっつぁん?だがしかし!!
それが先生だと知っていた場合……それは胸を見せてくれ、と言うだろう?
だって実質、性別は同じだったんだッッ!!なら胸はどうなってるか気になるじゃないかッッ!!
学生は好奇心を持って成長していくんだ……だから先生が美少女になったら
胸がどうなってるか気になるし、未知の世界だからこそ俺はそれを探求する。
そうだろうごっつぁん?男ってのはいつもそうだろう?」
「好奇心とやらを口実に見ようとしてるんだろ?」
「ふむ……後藤よ……俺が言いたいのは―」
「『早く帰らせろ』だろ」
「はい先生」
「親御さんには連絡済みだ……今日の夜は長いぜ?粕田よォ……」
「あべしィ……」