スライム吸血鬼は魔法大全を見つける
人型になったことで移動速度は格段に上がった。襲い来るムカデを片手で払いつつ進むと、ついに最奥に辿り着いた。2時間ほど歩いた先には、机があり、一冊の本が置いてある。俺を追いかけていたムカデは、少し離れた所で何かに阻まれたように止まった。結界的な物があるのかもな。
「魔法大全……?なんだこれ」
辞書のように分厚い表紙には謎の文字が書かれていたが、俺が触れた途端組み変わるように文字が動き、日本語になった。開いてみると、内側もまた組み変わり日本語になっていく。
書かれている内容は、簡単に言えば百科事典だ。魔法全体に共通する事柄が最初に書かれており、その後は魔法の種類ごとにカテゴライズされている。転生先を決める時に見た龍魔法に始まり、今一番知りたい血液魔法、果ては神に至った存在のみ使えるという神威魔法というものまで書いてあるようだ。形式は百科事典だが、内容は指南書や教科書寄りかもしれない。
「色々と読みたいのはあるが、知るべきは血液魔法……と、神聖魔法もか」
命に関わるということで、神聖魔法のページを先に見てみたが、どうやら神聖魔法と神威魔法は無関係らしい。回復や浄化という救いに関する力が、人間からすると神っぽいイメージだっただけのようだ。
「それぞれの魔法ごとに耐性があるのか。また厄介な」
神聖魔法を防ぐためには神聖耐性が必要なようだ。ただし、回復効果は耐性が有っても有効らしい。ちなみにアンデッド系……所謂、神聖が弱点の者たちでも、神聖無効を獲得すると神聖魔法で回復できると書いてあった。
「耐性獲得は……やはり教会か」
神聖耐性が貰えそうな環境効果に、浄化作用と昇天作用がある。各地の教会周辺の浄化作用は、ある程度高位のアンデッドなら嫌がりながらも近くまで行けるのに対し、聖地と呼ばれる場所の昇天作用は一撃であらゆるアンデッドを葬ってしまうらしい。神聖無効が手に入るまでは絶対に行かないぞ。
「その辺歩いてて急に死んだりしないようだし、残りを読むのはまた今度にしよう」
のんびり読んでいたら随分時間が経ってしまった気がする。日光耐性も欲しいしさっさと戻ろう。
拠点まではそれほど時間もかからず、近づくと光が見えてきた。今日のもう一つの目標、それは時間の把握だ。外はちょうど少し薄暗い。少し待って暗くなったら夕方だ。