八話 サイズがハトにキスをしました
八話 サイズがハトにキスをしました
「大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫」
エスパーダはライダースーツを血で汚していたが、それはハトの血だったようだ。要はとりあえず安堵した。
「ハイマース……」
アックスは膝をついて、ただハトを見ていた。相当ショックだったに違いない。
「アックス……」
エスパーダは悪い事をしたと思っているようで、遠慮がちに声をかけた。
アックスは急にスイッチが入ったように立ち上がり、激しい怒りをエスパーダに向ける。
「なんでこんな事になったんだ⁉︎」
当然の質問にエスパーダは冷静に答えた。
「ハトに乗っていたら、トンビに目をつけられて逃げ回ったの。そこはなんとか回避出来たんだけど、この近くでカラスに襲われて、操縦不能になって……」
「それでサッシにしたんだね?」
要の助け舟に頷いた。
「どうしたら良い? 明日から俺は……」
アックスにとってハトは大きな買い物であったはずだ。それなのに傷物にされた。しかも相手は大好きなエスパーダときた。愛を憎しみに変えないためにアックスは泣く事を選んだようだ。
「私は悪くないわ。外には危険がいっぱいだっただけ」
悪びれないエスパーダ。まあ彼女ならこの反応も想定内だ。
しかしアックスは違った。
エスパーダに向かって拳を振り上げていた。
「ダメ!」
サイズがエスパーダの前に立ちはだかった。
対象が視認出来なくなったため、アックスは止まった。だがすぐに動く。
「どけ!」
サイズは首を横に振る。そしてアックスにビビって震えていた。
激昂した大人を前にしてるだけで大したものだ。
「どけ」
声のトーンを落としてアックスはもう一度言う。
サイズはももう一度首を横に振った。
「友達だもん。エスパーダ、友達だもん」
「じゃあ、お前が責任取るのか? 取れんのか?」
アックスは弁償をちらつかせて、サイズを引かせる気だ。怒りが収まってきた今、アックスにとって友情で動くサイズは邪魔だからだ。
しかしサイズは頷いてみせた。
「やる」
「は?」
サイズは、呆気に取られているアックスの横を通り、ハトの側に跪く。
「お、おい」
アックスが声をかけたが無視した。サイズはハトに視線を集中している。そして大きく深呼吸。
「いくよ、ハイマース」
サイズはハトの傷口にキスをした。