因幡の国忠臣 木島吉嗣10
鹿御前は大きく飛びあがる。
そのまま、足を後ろに思いっきり引く。
「キモイ!視界にすら入るなぁぁぁぁぁ!シカアアアアアア!」
そう叫びながら、渾身の一蹴りを茶羽にくらわせる。
いくらゴキブリでも空中では動きが鈍い。
鹿の一撃は茶羽を捉える。
茶羽はそのまま、遥か彼方に飛んでいくのだった。
「くそゴキが、このくそゴキが、シカ」
鹿御前は完全に自分を見失っている。
そう、ゴキブリが出たら人格がかわる人っているよね。
親の仇のようにゴキブリをおいつめて退治する。
「シカちゃん、大丈夫ウサ。
ゴキはたぶん死んだウサ」
鹿御前の親友の兎千代がなだめる。
「うん、シカ」
根津吉殿と互角に戦っていた茶羽。
たしかに強敵だった。
ただ、彼にとって不運であったのは、自分がゴキブリであったこと。
それから、ここに最悪のゴキブリバスターがいたことだ。
「鹿御前さん、大丈夫ハム」
羽無殿も鹿御前をねぎらう。
「ああ、きったねえものを蹴ってしまったシカ」
鹿御前はそう言って羽無殿を見る。
まあ、落ち着いたみたいだ。
「きれいにしないとな。シカ」
そう言って羽無殿をつかむ。
「なにをするんですかハム。
やめてくださいハム」
そして羽無殿を持ち上げて、その背中でさっきチャバネを蹴った部分を拭く。
って羽無殿はモップでも雑巾でもない。
たしかにモップの先みたいだけどな。
わたしはかわいそうな羽無殿に手を合わせる。
つぎの敵はだれだ。
赤をベースにきらびやかな着物の妖艶な女が前に出る。
都の遊女といったところか。
こいつも額に触覚がついている。
「そろそろ本気をださないといけないね。ハチ。
都の傾奇者をこの程度とおもってもらってはいけないねハチ」
女は妖艶に微笑む。
こいつも語尾の使い方が下手なのだった。




