因幡猫丸04
「話というのはね。猫丸くん。
わたしは因幡の国を国を抜けようと思うんだよ」
子供に話をするようにゆっくりと話す。
「そうにゃん」
「殿、この伊刈のやつは虎丸様に一生ついていきますとか言ってたやつですぞ。
先代が亡くなったとたんに掌を返すのか」
猿翁が伊刈の言葉に反論する。
「ええ、虎丸殿に一生ついていきますって言ってましたよね。
虎丸殿がいなくなったんだから、この国を離れるのも道理。
そう思いませんか?」
伊刈はキセルを取り出して火をつける。
なんか、前に見た伊刈と全然違う。
いつも虎丸に怒られて、ペコペコと頭を下げていたのに。
まあ、伊刈の国を治める手間がなくなるんならそれでいいのだ。
伊刈の国って、山国であんまりおいしいものもない。
どっちかっていうと、因幡の国から食料を運んでいるくらいだ。
「わかったにゃん」
「それでは、伊刈の国は因幡の国から離れさせていただきます。
猫丸殿は噂どおりの大きな器量をお持ちだ」
「それでいいにゃん」
これで、部下たちの負担も少しマシになる。
「それから、私の家族も返していただけますね」
おやじは支配下の大名の家族を因幡の城下町に住ませていた。
それは、大名が離反したときの人質にするためだった。
それから、大名たちの団結のため。
大名は領地から離れて因幡の国に住まわされていた。
そこから領地を動かしていたのだ。
「それも許すにゃん」
因幡の国にいる大名の家族って、基本的に偉そうなのだ。
因幡の国の人とトラブルが絶えないのだ。
なんか、自分たちの方が身分が上とか誤解しているのだ。
おいしいものばかり食べているし、無駄にパーティばっかりやってるし、いらないのだ。
「さすが猫丸さま。
これは虎丸殿以上の大殿になるかもしれませんな。
もちろん、これからも友好国としてお互い助け合っていこうではありませんか」
伊刈は上機嫌で笑う。
べつにそんなことはどうでもいいのだ。
因幡にとって伊刈は軍隊として使っていただけ。
虎丸の時と違ってぼくたちは他の国を攻めたりしないのだ。
そんなことをして領地が増えたら大変なのだ。
だから、伊刈の国はもういらないのだ。
「それでは、伊刈のいいようにするにゃん」
ぼくも微笑んで手の甲を舐めて顔を擦るのだった、