プロローグ
傾国の美女と言う言葉がある。
一国を傾けるほどに美しい女性のことだ。
歴史上、その美貌で一国を滅ぼした女たちがいる。
君主がその美女にかまけて政治をおろそかにしたり、君主を操って国を滅ぼしたものもいる。
その美女たちに肩を並べるであろうと言われる姫がいる。
因幡白猫、因幡虎丸の娘にして猫丸の妹だ。
まだ、十にもみたない幼女だが、そのまばゆいばかりの愛らしさは都まで轟いていた。
彼女を見るとどんな悪人でも笑顔になってしまうといわれている。
現にあの暴君と言われた虎丸でさえも、白猫が何をしても怒らなかったといわれる。
本来であれば将軍の寵姫となることもできただろう。
しかし、女神ツクヨミのせいで因幡の城にいたものはすべて獣化されてしまった。
そのおかげで白猫も猫丸と同じ猫獣人にされてしまったのだ。
ある意味、より可愛らしくなったのだが、姫を嫁に迎えたいという話は来なくなった。
白猫姫は今も因幡城でわがまま放題にのびのびと育っている。
猫丸もわがままな城主だが、白猫姫にだけは頭があがらないようだ。
文字通り妹を猫かわいがりしているのだ。
「お兄ちゃん、遊ぶにゃん」
白猫が猫丸のところに来る。
「わかったにゃん。遊ぶにゃん」
猫丸は昼寝を中断して、白猫のところに行く。
「本当に猫丸殿は白猫姫に甘いんですね。
他のことなら昼寝が最優先ですよね」
木島吉嗣が猫丸に問う。
「そうにゃん。白猫はかわいいにゃん。
しかし、それだけじゃないにゃん」
そう言って、手の甲を舐めて顔をこする。
「それにしても、さっきから天井裏に鼠がいるチュウ。
殺してしまうチュウ?」
清水根津吉が天井を見ながら鼻をひくひくさせ剣に手をかける。
根津吉は鼠獣人で剣の達人だ。
「放っておくにゃん。
たぶん、一色の手の者にゃん。
殺したらめんどくさいにゃん
それに今は白猫と遊ぶのが大事にゃん」
「分りましたチュウ。
ただ、この程度の忍びの技で殿を探ろうなんて笑止ちゅう。
すこし脅かしてくるチュウ」
根津吉はそう言って姿を消すのだった。




