九里の国大名 九里秀平22
わたしが目覚めたとき、すべては終っていた。
不知火は倒れ、猫丸殿は因幡に帰ったあとだった。
この機会に将軍にでも会っておいてくれたら、あとのことが楽だったのに。
まあ、これが猫丸殿だ。
あとはわたしの仕事だ。
せいぜい将軍に恩を売っておくか。
幕府では、宴会の準備が行われていた。
不知火の脅威のある時はおとなしくしていた奴ほど元気になっている。
武士というのも、地に落ちたものだ。
まるで貴族、武ではなく口先だけで将軍に取り入るやつらが跋扈する。
ある種、魑魅魍魎の世界。
もしかして、猫丸殿にはすべてわかっているのかもしれない。
彼らに学ぶべきところは何もないことが。
「久里殿、今回はお手柄でしたな」
恰幅のいい大名がわたしの肩をたたく。
「これは一色殿」
都の有力大名の一人だ。
不知火が攻めてきたとたん、援軍を募ってくると国に帰って戻ってこなかったやつだ。
「今回は猫丸殿に先を越されましたな。
わしが戻ったときには、すべては終わっていました。
ほんとうに残念です」
思ってもいないことをさらりと言う。
「ええ、一色殿が参戦されたらもっと簡単に終っていたでしょうね」
「しかし、まあ、こういう機会を若いものに譲るのもいいかもしれませんね」
「はい、若殿にはいい勉強になったと思いますよ」
あくまで腰は低くだ。
「それにしても頼もしい若者ですな」
「いえ、評判どおりのうつけでして。
今回も将軍様にお会いするように言ったのですが、なにぶん呪いで猫にされておりまして…」
たぶん、今回のことで猫丸殿は相当警戒されたと思う。
まだ、将軍家には逆らわない方がいい。
猫丸殿にはうつけのままでいてもらったほうがいい。
「久里殿も大変ですな。ククク」
一色は笑いながら去っていく。
今回はこの程度でいいだろう。
いちおう将軍様にも若殿の武はわかってもらえただろう。
あとは、猫丸殿にわたしがついていることを知っていただくだけだ。
あんまり舐めてもらっても困るのだ。
わたしは、猫丸殿の仕事のために、宴会場に向かうのだった。




