因幡の国忠臣 木島吉嗣11
「おまえは誰だ。
この日輪には花神居士様以上の術者はいないはずだ」
「……」
狐面は答えない。
「おまえがどれだけの術者か知らないが、この花神居士様の一番弟子の天満宮春海が倒してやろう」
「おまえなんか知らないコン」
狐面は首をひねる。
「どういう意味だ」
「だから、ぼくは花神居士だけど、おまえなんか知らないコン」
そう言って、面を取る。
白い髪に狐耳の美少年の姿。
これが花神居士の姿なのか。
「まさか…
御師匠様、そんな姿になっておられたとは?」
「そういえば、崑崙山の麓で修行していた少年たちがいたコン。
その中のひとりコン?」
「はい、天満宮春海でございます。
3回も居士様に稽古をつけていただいたことがございます。
そのとき筋がいいっておほめいただいています。
それを糧に術を磨いてきました」
「そういうのよくあるから覚えていないコン。
あの頃は時々、少年幻術教室とかやってコン」
困ったような顔をする花神居士。
そうだよな。たとえば、プロ蹴球選手が少年蹴球教室に言って少し教えた程度の少年を覚えてるわけないよな。
要するにそういうことだろう。
そういう時、とりあえずはほめておくよな。
筋がいいとか、才能あるとか、抽象的な表現で。
まさか、この天満宮とかいうやつ、それを信じたの?
「まあ、今の術はなかなか筋がいいコン。
がんばって精進するコン」
今のは、社交辞令だ。たぶん本心からじゃない。
「承知いたしました。師匠。
この天満宮春海、師匠のようになるべく精進いたします」
信じたよ。こいつ。
天満宮は後ろを向いて自陣に戻っていく。
そのときには、もう式神たちは全員いなくなっていた。
地面には人型の紙型が散らばっているだけだった。




