九里の国大名 九里秀平12
波良が上段に構える。
力の入っていない自然な構えだ。
この若者の剣はくせがない。
もともと強かったが、羽無殿の指導を受けて九里一の剣士と言ってもいい。
羽無殿は神明流の免許皆伝。
神明流歴代一番の剣士とも言われている
その羽無殿の教示を受けているのだ。
神明流は日輪でいちばん歴史のある流派。
奇をてらったことはなく、あくまで基本を大切にする。
多くの先人が積み重ねてきた剣術、決して派手さはないが、最強ともいえる。
怒りの仮面をかぶった阿に対峙し、隙をうかがう。
阿は無刀で戦うようだ。
しかし、体格差はすごい。
波良が小柄なのでまるで大人と子供。
いや、阿の体型、手が異常に長い、まるでゴリラと子供か。
武器を含めても阿のほうがリーチが長い感じがする。
「神明流、波良長十郎参る」
きちんと名乗って戦いに入る。
戦う相手に対する礼儀だ。
しかし阿はそれに答えない。
ただ、腕を大きく振り上げ、振り下ろす。
その攻撃を避けて、波良は懐に飛び込む。
剣は的確に阿の心臓部を突く。
性格無比な攻撃、無駄な動きはひとつもない。
だが、阿の胸は貫けない。
金属同士がぶつかる音、そして、阿の手が波良をつかむ。
そのまま、振り回して投げる。
大きく空を舞う波良。
「無理ですよ。阿に剣など通用しません。
阿の身体は金剛石でできているのです。
鉄でできた剣などで貫けるものではありません」
金剛石、この日輪ではいちばん硬い鉱石とされている。
だが、重く加工が難しいため、剣や鎧に使われることは稀。
この鉱石でできたという剣や鎧兜は伝説級とされる。
わたしでも、いままで噂には聞くがみたことはない。
そのような鉱石でできた式神とは。
普通の刀ではどうしようもないかもしれない。
波良はさすがに剣士、投げられたがうまく受け身をとって転がる。
ダメージはさほどでもない。
「ここからです」
そう言って、再び剣を構える。
そして、もう一度阿に向かって飛び込んでいくのだった。




