九里の国大名 九里秀平02
銀狼殿は戦略や政策には強いが、常識に欠く部分がある。
確かに理論も大事だが、それを世の中に当てはめる時にはわたしのようなものが必要だ。
将軍様ともつながりがあり、儀礼や儒学にもくわしいわたしのようなものが。
たしかに将軍家の権威は地に落ちている。
しかし、権威というものは使いようだ。
過去にも執権として将軍家を利用した一族もいるのだ。
この世の中はきれいごとだけではうまくいかないのだ。
虎丸殿の時は自発的に因幡の国のために働こうとは思わなかった。
しかし、猫丸殿は違う。
食う寝る遊ぶだけしか考えていない人だが、殿のまわりには不思議と人が集まるのだ。
殿のためになぜか働きたくなるのだ。
猫丸将棋隊、この最強部隊も猫丸殿だから集められたのだ。
「猫丸殿、武士たるもの将軍家は助けないといけません」
「関係ないにゃん。戦うのはいやだニャン」
「ええ、将軍家のために働く必要はないのです。
ただ敵が将軍家の権威を手に入れるのはまずいのです。
もし、そうなってしまうと我々は賊軍となってしまいます」
「敵って誰ニャン」
「不知火天外です。
虎丸殿と並び立つ武将で、魔王とも呼ばれています。
いずれは虎丸殿と雌雄を決すると言われていました。
虎丸殿の亡き後、都に向かって進軍をはじめています。
今までは虎丸殿を牽制して動けなかったのですが、その障害がなくなったとたん、急激に領地を増やしています」
「でも、因幡の縄張りは荒らしていないにゃん。
猫は縄張りを荒らされなかったら問題ないにゃん」
「しかし、不知火の国にこれ以上力をつけさせてはなりません。
不知火天外は妖術という不思議な力を使うといいます。
将軍さまも不知火を今のうちに抑えようとしています。
そのため、有力な大名に不知火包囲網持ちかけています。
だから、これに乗らない手はないです。
不知火が倒れたら、因幡を攻める敵はなくなります」
「九里殿のいうことはよくわかります。
しかし、戦争が起きれば多くの人が死にます。
殿はそれに力を貸すのを嫌がっているのでしょう」
銀狼殿が若殿の考えていることを伝えてくれる。
若殿はどや顔でうなづく。
いや、本当にそう思っているのか?
若殿は猫獣人なので、なんか何も考えていないように思ってしまう。
「わかりました。
それでは、因幡連合を代表して九里が参戦しましょう。
それで因幡の国の顔が立ちます。
将軍に対しての忠誠も示せます」
「わかったにゃん。
そうするにゃん」
若殿は尻尾を立ててうなづく。
やっぱなにも考えていなさそうだ。
しかし、なぜか若殿のためになにかをしたくなる。
猫のために何かをしたくなる。
これは人間の本能といってもいいのではないか。
なぜか、わたしはそんなことを考えたのだった。




