因幡猫丸01
あの頭のかわいそうな人はなんだったんだ。
猫丸は自分の頭を触る。
そこには三角の耳が生えていた。
それからお尻には尻尾。
そういえば、獣になってしまえとかいってたな。
でも尻尾ってどんなんだろう。
ぼくは尻尾を見るためにぐるぐるまわる。
鏡を見ると、やっぱり半分猫になっている。
あのおばさんはただの胸と頭のかわいそうな人ではなかったんだ。
頭がかわいそうであぶない人だったんだ。
まわりを見ると、僕だけでなくてみんな獣化している。
門番の牛鬼は牛、駛馬は馬の顔になっている。
猿翁のじいちゃんは猿、獅子舞のおっさんはライオンの顔。
それから、妹の白猫も猫になっている。
なんかこの城の全部が獣にされているのだ。
これは大変なことなのだ。
とりあえず、こんなときには毛づくろいなのだ。
いや、そんなことしている場合じゃないのだ。
「殿、どういたしましょう」
猿翁がぼくに話しかける。
このじいちゃんはぼくの教育係、それから因幡四天王の一人にも数えられている。
とにかく、口うるさい爺なのだ。
「みんなを集めるにゃん」
「わかりました。殿」
そう言って猿翁は、部屋を出ていく。
みんなで、これからのことを考えるのだ。
それには、猫丸隊の19人を集めなくてはならないのだ。
猫丸隊はぼくが作った軍隊なんだ。
ぼくを含めて20人の隊で、ぼくが動かせるのはそれですべてなのだ。
その他の隊は全部おやじ、虎丸の部隊なのだ。
虎丸隊は将棋隊ともいわれるのだ。
歩兵9人、香車2人、桂馬2人、銀将2名、金将2名と角と飛車、そしてぼく。
ぼくの部隊は大事なことはみんなで決めるのだ。
数は少ないけど、ぼくに扱えるのはこれで限界なのだ。
100人とか1000人とかいても、ぼくには名前も覚えられないのだ。
だんだんと天守閣にみんなが集まってくる。
「殿、大丈夫ちゅう?」
歩兵の根津吉がそばに来て、心配そうに覗き込む。
こいつも獣化して鼠みたいになってるのだ。
なんか、むずむずするのだ。
たぶん、猫の習性なのだ。
「大丈夫にゃん」
ぼくは返事をする。
なんか、言葉がおかしいのだ。
しばらくして、ぼくの周りに猫丸隊の全員が揃うのだった。