伊刈高広05
「このガキ共!
上等だよ!殺してやる!」
赤鬼が叫ぶ。
もうこめかみにぶちきれそうな血管が浮かび上がっている。
「大将を出すニャン。
雑魚には用はないにゃん」
猫丸はあくまで赤鬼を挑発している。
こういう敵は冷静さをなくさせるというのも作戦だが、今とる手ではない。
「赤鬼殿、わたしがやりましょう」
剣を構えたやせぎすの男が前にでる。
無駄な筋肉を省いた身体、その構えだけで剣の道に生きてきたことがわかる。
そういえば、赤鬼隊の兵は傭兵あがりが多い。
その中にとんでもない剣客がいると聞いている。
なんでも、人を斬る練習をするために戦場に出るというのだ。
どう斬れば人は簡単に死ぬのか確かめるために剣を振るう。
ストイックではあるが、変態。
富岡玄白という男だ。
「獣人ですか。
これは興味がありますね。
人間とどう違うんでしょうね。
切り刻んで確かめてみましょう」
剣の背を舌で舐める。
「ここはわたしが行きましょう。ハム」
丸い耳で白い毛皮に覆われた小柄な剣士が出る。
こいつはハムスター獣人だ。
「富岡玄白です」
「羽無太郎座衛門、いざ勝負、ハム」
この剣士、語尾の使い方が下手だ。
そういえば、虎丸四天王にそんな名前のものがいたような。
「四天王か?
聞いたことがある」
「四天王?ハム?
ああ、あの名前だけ貸したやつハム。
三天王ではおかしいからって、虎丸に頼まれたハム。
将棋隊でくじ引きして、ぼくになったハム」
「名前だけか」
残念そうに、玄白は刀をおろす。
「心配いらないハム。
ぼくはこう見えて将棋隊20人の中で20番目に強いハム」
最弱じゃねえか。
しかし、羽無は身体の正面に綺麗な姿勢で刀を構えるのだった。