伊刈高広03
なんかこちらへすごいスピードで向かってくるものがある。
まさか敵軍。
いや、まさかな。
この戦いではどんなバカでも籠城するだろう。
戦力差がありすぎるんだからな。
攻めてくるなんてありえない。
それに数が少なすぎる。
たぶん10人くらい。
赤鬼と伊刈だけで1万くらいはいる。
それを10人で?
この赤鬼でさえ100人を相手にするのは骨が折れるだろう。
だんだん近づいてくるやつら。
先頭は猫丸。
って大将がまっさきに出てくるのかよ。
そのまわりを固めるのは女子供ばっかり。
2人だけ体格のいいものがいるが、それだけだ。
舐めてるのか?
いや、大将首を差し出すから、領民だけは助けてほしいとかそういうのだろう。
猫丸はうつけだが領民思いだって聞いているからな。
「たぶん、降伏でしょう」
「それは認められないな。
あの猫丸はわしを追い出したんじゃ。
その報いを受けてもらう!」
赤鬼は激怒している。
残酷な男だ、降伏したところで悲惨なことになるだろう。
しかし、赤鬼をおさめるにはそれしかない。
わたしは心の中で合唱する。
すぐに目の前に迫る猫丸。
さすがに獣化の呪いをかけられてるだけあって、足は速くなっている。
それに、完全に猫だ。
三角の耳、尻尾、ひげ、細い目…
虎丸と同じなのかどうかわからないが茶色の虎柄。
いきなり、わたしたちの前で止まる。
「おまえが大将にゃん」
丸い目で見上げて耳をぴくぴくする。
「いや、九里軍の先鋒を任されているだけだ」
「じゃあ、こっちニャン。
でも、雑魚っぽいニャン」
赤鬼を指さす。
だめだろう。降伏に来たのに挑発したら、本当にうつけだな。
「おまえはわしを覚えていないのか?」
怒りを通り越してあきれたように赤鬼は猫丸を見下ろす。
「覚えていないにゃん。
早く大将を出すニャン」
そう言って猫丸は尻尾をゆっくりを左右に動かすのだった。