因幡の国忠臣 木島吉嗣19
たぬ姫が生きていたのなら、稲荷殿も…
わたしはわずかな希望を持って首がなくなった稲荷殿を見る。
やはり、稲荷殿は動かない。
しかし、いつの間にか空に紙片が舞っている。
まるで紙吹雪のように。
その紙片は人型になっている。
「何、これ。
いつのまにこんなの撒いたの?」
イワナガヒメはまわりを見回す、
「コーーーン」
甲高い声が響き渡る。
そのとたん、紙片は実体となる。
紙片は狐面の術師の姿に変わっていく。
イワナガヒメの目の前にたくさんの稲荷殿が現れる。
もしかして、さっき首がなくなったのも式神だったの?
「そんな目くらまし通用するかよ」
イワナガヒメは魔法を展開する。
さっきと同じように、すべての稲荷殿に対して光の帯を撃とうとする。
たくさんの稲荷殿も魔法陣を展開する。
「無駄だよ。神に人間の術は通用しねえよ」
イワナガヒメがそう言うと、その前に展開された魔法陣から光の帯が伸びる。
その光の帯は式神たちの魔法陣を正確に捉える。
「おまえの魔法なんて壊してやるよ。
そして、わたしの魔法はおまえの式神を全員貫く。
ジエンドだよ」
イワナガヒメはそう言って親指を地に突き立てる。
そのとたん、光の帯は式神たちの魔法陣に当たる。
しかし、そのエネルギーは魔法陣を貫かない。
もちろん破壊もしない。
エネルギーはそこで跳ねかえされ、すべてイワナガヒメのところに戻っていく。
無数のエネルギーの集合体はイワナガヒメを吹っ飛ばす。
「鏡の陣コン。
すべての魔法を増幅して跳ねかえすコン。
神の魔法なら、あなたにも通じるコン」
そう言って、空から稲荷殿が降りてくる。
稲荷殿が地上に降りて、指を鳴らす。
そのとたん、すべての式神は紙片へと戻って、風に舞う。
その紙吹雪の中を稲荷殿はゆっくりと歩く。
これでスサノオの陣営はオロチとスサノオを残すのみとなった。