因幡の国忠臣 木島吉嗣10
「この小娘がわたしの相手ですか?
わたしはヒルコ。
始原の神です」
長髪の細い男が前にでる。
そして、腕を振る。
その腕が伸びて、狸姫を襲う。
たぬ姫はそれを避ける。
ヒルコの腕は戻ってくるときに枝わかれしてまた狸姫を襲う。
こいつの腕、まるで半液体のよう。
たぬ姫はそれを避けながら木の葉を頭にのせる。
伝統的な狸の変身の仕方だ。
たぬ姫は煙につつまれる。
煙が晴れた時、そこには羽無殿がいる。
いや狸の尻尾が生えているから、羽無殿ではない。
ヒルコに向かって刀を構える。
その堂々とした構えは羽無殿そのものだ。
たぬ姫は姿だけでなく、技も真似るのか。
「ほう、変化ですか。
お手並み拝見といきましょうか」
ヒルコは笑って腕を伸ばしてくる。
それをたぬ姫は刀で斬る。
見事な剣技だ。
ヒルコの腕は地に落ちる。
その腕はすぐに跳んで元のところにつながる。
まるで半液体で出来ているような身体。
刀は効かないようだ。
たぬ姫はバク転して、元の姿に戻る。
「たぬ」
そう言って、手をかざすと炎の弾が跳ぶ。
それは、ヒルコの腕に当たる。
ヒルコに物理攻撃は通用しない。
だから、術というわけか。
このたぬ姫、ウサギとかと同等かって思ってたが、なかなか頭が切れるのかも。
それに変身だけでなく、火の術も使えるのか。
しかし、ヒルコの腕は無傷。
燃えていない。
火には強いのか。
「たぬぅ」
タヌ姫がまた手をかざす。
もう火は効かないよ。
しかし、たぬ姫の掌から白い煙。
もしかして、あれは冷気。
ああみえて2属性の魔法が使えるのか。
たぬ姫の煙が当たるところから、ヒルコの腕は白く凍り始めるのだった。