因幡の国忠臣 木島吉嗣09
ヒノカグツチの剣は炎の刃となる。
「俺は名前どおりの炎使いだ。
それも俺が使うのは地獄の業火」
ヒノカグツチが剣を振ると、炎が竜のように柴殿を襲う。
柴殿はそれをなんとか避ける。
しかし、次の炎が柴殿を襲う。
さっきと変わって柴殿は防戦一方になる。
炎の剣は受け止めることができないから、避けるしかない。
柴殿は、紙一重で炎を避ける。
すこし、毛が燃える臭いがする。
たぶん、獣は炎が苦手だ。
しかし、柴殿は勇敢にヒノカグツチに立ち向かう。
炎の剣の奇跡を避け、ふところに飛び込む。
そこで、剣を一閃させる。
「俺の力は剣だけだと思うか。
甘いな。
これで犬の丸焼きの出来上がりだ」
そう言って口から炎を吐く。
その炎は柴殿を包み込む。
だめだ。
炎に焼かれるのは身体だけではない。
炎が燃やすのは空気なのだ。
あれでは息ができない。
柴殿は転がって火を消そうとする。
わたしも柴殿に近寄る。
でも、何もできない。
柴殿は地面に身体をこすりつける。
火はだんだん小さくなっていく。
「おまえらに神は倒せん。
あきらめろ…」
そう言って剣を掲げるヒノカグツチの顔から笑いが消える。
ヒノカグツチは自分の手を見る。
その手の指は5本ではなく、4本になっていた。
柴殿の剣がヒノカグツチの指を一本落としていたのだ。
「どういうことだ。
獣化しているといっても人間だ。
神を斬れるはずがない」
さっきの熊野坊殿といい、負けたけど、神相手になんとか一矢報いている。
それは後の将棋隊に対するメッセージだ。
あきらめなければ勝てる。
そう言ってるように見える。
「あとは任せるタヌ」
柴殿から猩猩寺狸姫がバトンを受け取るのだった。