因幡の国忠臣 木島吉嗣01
「それでは、因幡猫丸を征夷大将軍に任命する」
王がそう告げ、官位を現わす烏帽子を猫丸殿にかぶせる。
日輪の国では王は形式的なものとなっている。
武家社会となったときにすべての権限を将軍に渡したのだ。
そのとき、日輪の国は軍事国家となったのだった。
王は祭祀を行うだけとなっている。
「謹んで承るニャン」
若殿はカンペを棒読みする。
獣化した若殿は一行の台詞さえ覚えられない。
儀式の間、さっきまで寝てたし、ここまで儀式が滞りなく行われたのは奇跡だ。
それはみんな久里殿がフォローしており、さすがという他ない。
これで、若殿の天下統一がなったのだ。
久里殿は感無量といった様子だ。
猫丸殿が将軍になることは久里殿の夢だったのだ。
わたしが思う限りでも平和な世の中になるだろう。
そう、為政者はすこし怠け者位でちょうどいい。
ただ、周りに人材がいることが絶対条件だが。
そして、わたしもその人材の一人だ。
猫丸殿の側近であるわたしはどのような重職につくことになるのだろう。
もとよりどんなきつい仕事でもやりとげる自信はある。
たぶん、猫丸殿はわたしのことを要らないににゃんとかいって因幡の国の役につけなかった。
それは、わたしにもっと大きな仕事をさせようとしていたのだろう。
田舎の国ではわたしを使うほどのこともないという判断だろう。
若殿が天下を取った今、わたしの力が必ず役に立つはずだ。
あとの儀式は銀狼殿、猿翁殿、久里殿でつつがなく進んでいく。
若殿は…細い目で大人しくすわっているだけ。
って、あの顔は…たぶん寝ている。
とりあえず、最高神アマテラス様に将軍交代をお伝えする儀式は終わった。
あとは、将軍交代を祝う宴会が行われる。
その時、御所の後ろの扉が開く。
逆光の中、5人の影が浮かび上がる。
「異議アリだな」
王侯貴族のような金色の服を着た長髪の男が通る声でいう。
「そうだな。
神はそれを認めない」
大男が長髪の男の言葉に応じる。
「誰だお前らは」
衛兵が後ろから侵入者を捕まえようとする。
もう一人の痩せた男はその腕をつかむ。
そして軽々と投げる。
まるで極悪ウサギのような怪力。
「神だよ。
頭が高いってか、ハハハ」
中央の金色の服を着た男はそう言って笑う。
5人の男を衛兵たちが取り囲むのだった。