因幡の国忠臣 木島吉嗣28
「イヤだニャン、将軍なんてイヤだニャン」
「そう言わずに、これで日輪の国から争いがなくなるのです」
「でも、仕事が増えるニャン。
お昼寝の時間がなくなるニャン。
遊びの時間もなくなるニャン」
久里殿と猫丸殿がやりあっている。
そう、先日、将軍京極正親様より書状があったのだ。
その内容は将軍の地位を禅譲したいとのことだった。
猫丸殿はいやがったが久里殿が説得したのだった。
久里殿は虎丸殿に仕えていた時は虎丸殿の顔色ばかりうかがっている小物と思っていたが、猫丸殿に仕えるようになってから、水を得た魚のようになった。
久里殿は戦国大名というより政治家だったのだ。
たしかに虎丸殿に鍛えられてそこそこの武力を持っている。
しかし、本当は世の中のこと、人々のことを考え、国を運営していくことに長けていたのだ。
たしかに因幡の国の隆盛は、猫丸殿の自由主義によるものが大きい。
ただ、それを運営しているのは久里殿だ。
自由にするだけ、小さな政府というのは無秩序になりやすい。
銀狼殿は軍師であって政治家ではない。
確かに頭もいいが、泥臭く行政を行うというのは苦手だ。
制度や法律は考えられても、それを実行に移すことは久里殿が一枚上だ。
その上、久里殿は良い政治家だった。
因幡の国だけではなく、天下を憂っていたのだ。
いままでも将軍と因幡の橋渡しをしていたのは久里殿だった。
久里殿は乱世を終わらそうとしていたのだ。
みんなが安心して暮らせる社会。
戦のない社会。
そういうのを作ろうとしていたのだ。
そのきっかけは若殿の器に触れたことだったのかもしれない。
久里殿はその力を使っても平和な世が作りたかったのだ。
久里殿はとうとう京極将軍に将軍位を禅譲させることに成功したのだ。
後は若殿に将軍任命の式典に出てもらうだけだ。
たぶん、若殿も久里殿の努力や夢は理解していると思う。
それだけの器は持っているのだ。
最終的にはデアルカニャンと言って久里殿に従うのだろう。
「絶対にイヤにゃん。
都にはいかないニャン」
「そんなこと言っては困ります。
若殿にはこの日輪を治めていただかないとならないのです。
もちろん、わたしも精一杯フォローさせていただきます」
「いやなものはイヤだニャン」
そう言って若殿は飛び上がって久里殿を避ける。
そのまま、窓から飛び出して屋根に飛び上がる。
あっ、これ、大変なやつだ。
猫が屋根に逃げると大変なんだよ。
因幡城では最近恒例の屋根の上の大捕り物が始まるのだった。