八角錦之助02
「デアルカ」
猫丸は細い目でわしを見る。
俺は猫丸の前で剣を構える。
もう八角衆はわし一人だが、そんなこと関係ない。
俺は昆虫の王、カブトムシの力を手に入れたのだ。
猫ごときに負けるわけがない。
この目の前の猫丸を倒せば、乱世は終わるのだ。
将軍様に逆らうものはいなくなる。
八角衆も取り立てられて、低い身分で扱われることがなくなるだろう。
「猫丸、俺はお前を倒すカブ。
そして、この乱世を終わらせるカブ」
「好きにするといいニャン。
ぼくは天下統一なんてめんどくさいニャン。
乱世が終わるならそうするといいニャン」
「それにはお前の首が必要カブ」
猫丸は腕を組んで考える。
いや、あの顔は考えているような顔ではない。
猫だもんな。
「それは困るニャン。
首を斬られるのはいやニャン」
「それでは、戦うしかないカブ」
「仕方ない、戦うニャン」
そう言って俺を見る。
真向から戦おうというのか。
面白い。
俺は前に出ようとする。
えっ?足が動かない。
身体が震える。
どういうことだ。
俺は猫丸に恐怖しているのか。
「カブー」
俺は叫ぶ。
自分を鼓舞する。
しかし、身体は動かない。
俺は解かった。
そう虫は獣にとって食べ物にすぎないのだ。
たしかに一部鳥や獣を捕食する虫もあるらしい。
しかし、それは稀なケースなのだ。
昆虫は被捕食者なのだ。
そして、それはDNAに組み込まれているのだ。
虫にとって鳥獣に戦いを挑むことはあり得ないことなのだ。
そして、それは意思によって超えられるものではなかったのだ。
「参りました」
俺は首を垂れる。
「デアルカ」
猫丸は、膝をつく俺を細い目で見下ろすのだった。