因幡の国忠臣 木島吉嗣26
なんだ、この力は立ってられない。
重力、いや違う。
とてつもなく大きな力が我々を襲う。
立っているのは御山と八角、その隣のフードの女だけだ。
こっちの将棋隊はみんな立っているが、やはり力は感じているみたいだ。
わたしはその力に耐え切れず膝をつく。
「これが闘気だガオ。
ただ、わしの闘気はこの程度だガオ。
若殿には到底かなわないガオ」
「な、なんだこの力はクワ。
指一本動かせんクワ」
「これが見えない時点でお前はもう終わっているガオ。
剣の勝負、それは剣を持つ前に終わっているのだガオ。
だから剣の王なんて称号にはなんの意味もないガオ。
お前にくれてやるガオ。
わしは将棋隊の角行という名で十分ガオ」
古の剣豪が剣の道を極め、至ったのが無刀であったという話がある。
獅子舞殿もその境地に至ったのだろうか。
「負けましたクワ。
修行をやり直しますクワ」
「精進せよガオ。
また相手するガオ」
「また獅子舞は難しいこと言ってるニャン」
「デアルカニャン」
そこに白猫姫と猫丸殿が歩いてくる。
将棋隊といえどこの力の影響を受けているはずなのに、まったく普通にあるいている。
わたしは、もう両ひざをついているっていうのに。
もしかして、闘気というのを放つのはやめたのか。
わたしは身体を動かそうとしてみる。
やっぱ全然動かないっしょ。
「若殿、姫、こんなところに。
貧弱な闘気をお見せしてしまって恥ずかしいガオ」
照れる獅子舞殿。
でも、その前にこの闘気をやめてくださいよ。
「おまえが猫丸か」
そう言って前に出る兜武者。
「そうニャン。
お前は誰ニャン」
「俺は八角錦之助、都の八角衆の頭領だ。
猫丸お前を潰しに来た」
そう言って八角は若殿の前で剣を抜くのだった。