因幡の国忠臣 木島吉嗣23
大蟷螂は後ろに吹っ飛ぶ。
刃物さえ砕く気の塊をぶつけられたのだ。
死んではいないだろうが、全身の骨がおれているだろう。
とにかく、大蟷螂も戦線離脱だ。
「しかたないクワ。
わしが行こうクワ」
八角錦之助と同じくらい大きな黒い鎧の男が前に出る。
兜には長い二本の角がついている。
こいつはクワガタの虫人だ。
「武人か。
ではわたしだなガオ」
獅子舞殿が前に出る。
大剣を持った獅子の獣人。
剣のひと振りで嵐を起こす化け物だ。
「わしは御山鍬形。
ただの求道者だクワ」
聞いたことはある名前だ。
剣豪として名をはせた者にそういう名のものがいると聞いたことがある。
厳島流の創始者で大名に仕えず強者を見つけては決闘を挑み退けていると。
「聞いたことがあるガオ」
「わしは巷で強者を見つけては退けてきたクワ
わしは自分が倒した者に問うことにしているクワ
自分より強い者は誰かってクワ。
そうすればいずれ一番強いものにたどりつくクワ
「そうガオか」
「それで、最近倒したものが一様に口にするのが、猫丸将棋隊の名だクワ
中央では知られていないが、その強さは普通じゃないと言うクワ
羽無太郎左衛門の剣、平手猿翁の技、立花兎千代の剛力。
なにより、因幡猫丸の無敵剣。
おもしろそうだよなクワ。
それで、今回八角殿に同行したというわけだクワ。
もちろん、おまえらを倒したあとは八角殿とも戦うわけだがなクワ」
「そうかガオ。
それでは、猫丸将棋隊、角行、獅子舞武蔵が相手をするガオ」
「角が相手をしてくれるのかクワ。
さすがにわしの力がわかるみたいだなクワ」
「いや、ただ近くにいたからガオ」
罰が悪そうに頭を掻く獅子舞殿。
「まあ、どうでもいいクワ」
御山はそう言って両手に刀を構えるのだった。