因幡の国忠臣 木島吉嗣18
その時空から、羽無殿を襲う影。
「あぶないハム」
羽無殿は回転して避ける。
空には4枚羽根の傾奇者。
蜂とは動きが違う。
虫はヘリコプター的な飛び方をするのが多い。
鳥に比べて飛ぶのは遅いが、小回りがきく。
しかし、さっきの影は速い。
将棋隊にも飛べるものがいる。
紅雀が飛び上がり追いかける。
しかし、追いつけない。
「待つチュン」
「待てないなトンボ。
わたしは昆虫で一番飛ぶのが速いのだトンボ」
こいつはトンボ虫人だ。
トンボと言うのは、昆虫ヒエラルキーの頂点にいる。
つまり捕食する側なのだ。
その中で最大のオニヤンマは雀蜂すら捕食するという。
あの雀娘が逆に追われることになっている。
普通なら鳥のほうが大きいのだろうけど、ここではトンボ人間のほうが大きい。
「わしはトンボ虫人、鬼面蜻蛉、トンボ。
空では最強の傾奇ものだトンボ」
「うちは紅雀、歩の六だチュン」
「雀は虫にとって天敵トンボ。
しかし、ここではそれが逆転するトンボ。
獣を含めてもトンボが空の王者トンボ」
「逃げるチュン」
そう言って飛ぶ紅雀。
その後ろに蜻蛉が張り付く。
そして、剣を抜く。
紅雀も短剣を抜く。
ただ、空での戦いは追われるほうが不利。
左右に動いて攪乱しようとする。
だが、蜻蛉は余裕を持ってついていく。
見極めて剣を振る。
これは避けきれない。
そう思ったとたん、金属がぶつかる音。
蜻蛉の刀を受け止める黒い腕。
「烏丸小太郎参上カー!」
黒装束の忍者は、そう言って戦いを引き継ぐのだった。