因幡の国忠臣 木島吉嗣17
牛鬼殿は手斧を力いっぱい振り下ろす。
しかし、百足丸は2本の剣で受ける。
いや、受けられない。
百足丸の剣は折れて切っ先が飛ぶ。
「なかなかいい剣だったのにもったいないモー」
「いつものことじゃないかヒーン。
武器砕きの牛鬼、ヒーン」
そういえば、牛鬼殿に挑戦した猛者たちは、武器を砕かれている。
ケガを追わせるのではなく、武器を壊すことで戦意をなくさせるのだ。
それが、牛鬼殿の戦い方だ。
「まぐれだ。この業物がそんなに簡単に壊されるわけはないムカデ」
そう言って、残りの剣で牛鬼殿に斬りつける。
百足丸の刀はあと4本ある。
牛鬼殿は斬りつける刀に下から斧を合わせる。
斧と剣がぶつかって、剣が折れる。
「あきらめるモー。
おまえもなかなかのものだったモー」
「くそっ、ムカ」
百足丸は残りの刀を振り回す。
それを牛鬼殿は簡単に受け止め、折る。
百足丸は無手になる。
しかし、無数の腕を振って牛鬼殿に挑む。
牛鬼殿は斧を捨てる。
武器には武器を、格闘には格闘をといったところか。
牛鬼殿は相手を退けるだけ、叩き潰そうとは思っていない。
百足丸は牛鬼殿より小さいが、持ち上げている身体は一部。
後ろに長い動体を持つ。
それだけ、身体は安定しているはずだ。
それに牛鬼殿は相撲で挑む。
「それでは、決着をつけるモー」
牛鬼殿は、足を開いて姿勢を低くする。
相撲の立ち合いのように、地面に手をつく。
それを合図に百足丸が突っ込んでくる。
牛鬼殿も地面を蹴って前に出る。
激突する二人。
ただ、牛鬼殿のほうが低い。
2人とも一歩も引かない。
「力では負けないムカデ」
「なかなかの力だモー。
しかし、まだまだだ、出直してくるモー」
牛鬼殿はそう言って、角をはねあげる。
百足丸は高く宙にとばされるのだった。