因幡の国忠臣 木島吉嗣16
牛鬼殿は6本の剣をつぎつぎと受け止める。
腕の数は違うが、手斧の使い方ですべてを弾く。
やはり、この牛鬼殿も達人だ。
因幡の正門を守っている門番だ。
因幡の門には全国から腕におぼえのあるものが集う。
その腕自慢たちを退けてきたのが、駛馬殿と牛鬼殿、それに羽無殿だ。
まあ、将棋隊の中ではこの三人くらいしか、真面目に仕事をしないというのもあるが。
百足丸もこの百戦錬磨の牛鬼殿と互角にわたりあっている。
相当の強者だ。
牛鬼と百足丸は何合か打ち合う。
しかし、決着はつかない。
やはり虫化の呪いを受けた者たち。
いままで将棋隊とこれだけ戦える者たちはいなかった。
「牛鬼、あんまり遊ぶんじゃないヒーン」
駛馬殿が牛鬼殿に声をかける。
「すまん、すまんモー。
これだけ戦えるやつは久しぶりだったんでなモー。
ついつい遊んでしまったモー」
「おまえの悪いくせヒーン。
相手の技を全部受けようとするヒン」
「おまえら何を言ってるムカデ。
いままでのは本気じゃないっていうのかムカデ」
「悪いモー。
しかし、なかなか強いモー。
少しは楽しめたモー」
「負け惜しみを、ムカデ」
「では本気の武というものを見せてあげるモー」
そう言って牛鬼殿は百足丸に向き合う。
なんか、さっきまでと違う。
殺気をまとっているというか、さっきより大きく見える。
これは牛じゃない。
バッファローだ。
「そんなこけおどしには乗らないムカデ。
さっきのがおまえの全力ムカデ」
「じゃあ、やってみようモー」
そう言って斧を構える。
そして静かに前に出る。
なんか、百足丸の足が震えている。
それくらいの迫力。
牛鬼殿は百足丸の前で高く斧を振り上げるのだった。