因幡の国忠臣 木島吉嗣14
胡蝶の元に突撃する根津吉殿の動きが止まる。
そして、崩れるように倒れる。
「根津吉殿!ハム」
羽無殿は根津吉殿のところに駆け寄る。
「ハムー」
その羽無殿も同じように倒れる。
どういうことだ。
「これはやばいワン。
眠り薬ワン」
犬之新殿が鼻を抑える。
そう、犬獣人の柴殿は鼻が利く。
羽無殿や根津吉殿が眠ってしまった原因をすぐに解明する。
胡蝶のまわりにキラキラ光るもの。
たぶん、あれは鱗粉。
その中に眠りの成分が入っているのだろう。
「みんな眠ってしまうチョウ」
そう言って胡蝶は身体を広げる。
振袖のあでやかな模様の衣装が映える。
それから、後ろに白っぽい翅を開いている。
模様は見えないが、たぶんあでやかな翅だろう。
怪力ウサギとバカ鹿も倒れてしまう。
わたしも手ぬぐいで口と鼻を覆う。
「わかったウマ。
こいつの正体が」
駛馬殿が槍を振り回しながら前に出る。
あたかも巨大扇風機といった様相だ。
正体って胡蝶って蝶の虫人じゃないの?
「おまえは蝶じゃないなウマ」
「わたしは蝶よ」
「その模様は蝶ではない蛾だウマ」
駛馬殿が踏み込んで長槍で突く。
それを翅をいっぱいに開いて飛ぶ。
胡蝶の翅の模様がはっきりとする。
白字に茶色の模様。
たしかに蛾だ。
「違う、蝶よチョウ」
「蛾だウマ」
どっちでもいい気がするが、なんか胡蝶は蛾っていわれるのがいやみたいだ。
「蝶じゃない蛾だウシ」
牛鬼殿も胡蝶に追い打ちをかけるのだった。