九里の国大名 九里秀平03
「それでは出陣だ。
皆の者、因幡の国を滅ぼそうぞ!」
わたしの呼びかけに、みんなが声をあげる。
戦の儀式は終わった。凶日は避けた。
それに5万対千足らず。
負ける要素はなにもない。
それでも、向こうに虎丸がいたなら、これでも安心できなかっただろう。
ただ、その虎丸も今はない。
あの、戦の申し子がいたら何をやらかすかわからない。
今や不安要素はなにもないのだ。
ただ、因幡の国を舐めるわけにはいかない。
四天王のうちあと2人が残っているのだ。
といっても、一人は平手猿之助、虎丸が猿爺と呼んでいた老人だ。
昔は強かったのかもしれないが、今は猫丸の教育係を勤めているらしい。
つまり、もう一線では戦えないとみていい。
もう一人は羽無太郎衛門という。
こいつは名前だけで、実際の戦に出てきたことはない。
因幡の国の国防を担当していたというが、実力は不明だ。
それより、残りの2人が因幡虎丸の戦の中心といっていい。
赤鬼成重、最初に虎丸に仕えた大名だが、その名のとおり人間でなく鬼といってもいい。
自分は鬼の子孫だとうそぶいているが、それを信じてしまうほどの体格。
それに戦闘狂といった性格。
虎丸にいちばんかわいがられてたという大名だ。
それをあの猫丸は…
おまえは顔が怖いからいらないと追い出したのだ。
あのバカは最強の戦力を放り出し、九里はそれを手に入れたのだ。
赤鬼は相当猫丸に恨みを募らせていて、今回の戦では先鋒を志願している。
それから、伊刈高広。
こいつは私と同じ虎丸に降伏した国の大名だ。
個の力では赤鬼に及ばないが、用兵でいえば赤鬼部隊よりも強い。
わたしも同じだが、虎丸に前線で戦わされ鍛え上げられた兵を持つ。
もともと因幡よりも兵は多かったが、戦の中で半分になってしまった。
そのかわり、因幡軍でも指折りの精鋭部隊となった。
今回、わたしと同じで真っ先に離反を表明した。
あいつもよっぽど虎丸を恨んでいた。
その矛先が猫丸にむけられるわけだ。
因幡の国は相当悲惨なことになるだろう。
民たちはあの虎丸を恨まばいい。
それと無能に育った猫丸を。
戦国の世では弱い指導者は悪なのだ。
もう、赤鬼と伊刈は出立した。
そろそろわたしも出るころだな。
これは足がかりにすぎない。
因幡を滅ぼした勢いで九里の国が日輪を統一し、戦国の世を終わらせるのだ。
そう思っている間に、わたしを乗せた馬車が動き始めるのだった。