41話 魔王の矜持
「おらあああああああッ」
爆発音のすぐ後に、剣同士がぶつかる激しい金打音がする。
暴食の魔王は、ローエンの一撃を軽くはじき返す気でいた。しかし、はじかれて体制を崩したのは魔王のほうだった。
「つかんだぜ。あんたの重さ。オレのスタイルは、どうやら魔剣にも邪魔されないしなっと」
「勢いだけは、たいしたものだ。だが、一時のもの。たったの一合だけ打ち合えたからといって、対等に並べたと思うなッ」
たたみかけようと、両手剣を切りあげたローエン。ネブリオは右足をローエンへと突き出し剣先の軌道に割り込みずらすと、重心を移動させ深く踏み込む。ローエンに対して、魔剣が横なぎに襲いかかる。ローエンは左手を剣から話すと、拳を握った。
「どらああああああッ」
――ドンッ、ガッ
拳を爆発させ、加速し落とした肘鉄が、ネブリオの剣を地面に叩き落した。ひとつ間違えれば、ローエンは腕ごと斬られていた。
「バカな!? 命が惜しくないのか!?」
「出し惜しみなんてしてられるかよ! あるもの全部出し切って、魔王を倒す!」
――ドオンッ
ローエンは爆発を起こしながら、暴食の魔王へと肩をぶつけるほどに近づくと、魔王に対して体を半身にした。
「〝爆裂炎舞・蛇廻し〟」
爆発。そして、爆風。火炎の尾を引く炎の刃が、空中に円を描きながら走る。ネブリオは、炎を魔剣に吸わせながら片手を剣の腹に添え、ローエンの連撃を耐える。ローエンは、強引に剣を振り回した。ネブリオが全力で剣を押し込み、ローエンの頭上ちかくで振り下ろされる剣を抑え込んだ。ローエンの腹に膝を入れ、弾き飛ばして距離を取る。地面に倒れても、ローエンはすぐに立ちあがってきた。
「ダンナ、待たせたっす」
倒れたライアが、ローエンのとなりに戻ってきた。キキョウはローエンをライアとはさむ形で立ち、薙刀の切っ先を返す。
「ローエン様、三人でいきましょう。合わせます」
「おう! あいつと打ち合わねえようにな」
「承知しました」
勇者と仲間が並ぶ光景に、ネブリオは頷いた。
「まだ話せるうちに、聞いておきたいことがある」
「いいぜ。言ってみろよ」
キキョウが嫌がるそぶりをしたのを見たローエンが、返事をしていた。
「ひとつの矜持だ。お前たちの命を奪う以上、晩餐はお前たちの好物を噛みしめるようにしている。俺の一部になるための通過儀礼として、ぜひとも聞いておきたい」
魔王が丁寧な仕草でてのひらを見せながら、問いかける。
「好きな食べ物は、なんだ?」
「コロッケだ。田舎の味でさ。帰ってきた! って感じがするんだよ」
「えっ、ふつうに答えるやつっすか? え、えっと……フライドポテトっすかね」
ローエンとライアは、戸惑う表情をしているキキョウに目を向けた。へそを曲げながらも、ちいさな声で律儀に口にする。
「い、いちごのパイ」
「たしかに聞き届けた。ゆくぞ。芋共、そして、いちごのパイ」
大真面目な顔をした魔王は、仕切りなおす。二歩下がると、防御の構えをとった。中断させた勝負の先手を譲ろうとする。
「「おいッ」」
一緒にされた男ふたりが声を同じくした。
「コロッケとフライドポテトを一緒にするのやめろ! ぜんぜん違うぜ!」
「ものによっては、そう変わらぬだろう? 芋をつぶして揚げるだけだ」
「ちがうっす! 自分が好きなのはホクホクしたのよりも、芋の形をそのままに揚げてるやつっす! かるく岩塩をふって食べると、うまいんすよ」
「それはメインを彩るつけ合わせではないか? サイドメニューが好きとは……大きくなれぬぞ」
「わかりあえないっす! 自分、あいつと合わないっす!」
「見せてやろうぜ、芋の力。オレらは芋食って強くなったってよ!」
「やってやるっす!」
「……あの、芋でまとまってしまってますが」
キキョウを置いて突撃した男ふたりに、声は届かなかった。
魔王の一撃で吹き飛ばされたローエンとライア。まずい体制で地面に叩きつけられようとするふたりを、キキョウは結界で受け止めた。
「芋ばっかり食ってるから、そんなにも貧弱なのだ。肉を食え、肉を!!」
「金がねえーーーッ!!」
「焼いても自分のところには、まわってこねえーーーっ!!」
すぐに立ち向かってゆくローエンと、食い下がるライア。キキョウは一歩引いて、戦況を見つめながら言った。
「……立ち入ってもよいのでしょうか」
三人の男たちは、熱く叫びながら、ぶつかっていた。




