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おっさんのごった煮短編集

自由な選択 

ありがちな話



 俺は30代になる派遣社員だった。

 薄給に悪態をつきながら、給料日には少し豪勢なつまみで晩酌するのが楽しみなだけの底辺だ。

 今日も心許ない給料に将来の不安を感じながら安い発泡酒とコンビニで買ったあたりめでさっさと酔っぱらっちまおうとアパートに据え付きの冷蔵庫をあける。

 「あれ、発泡酒ないじゃん」

 あー、買い置き呑みきって仕事帰りに買って帰らにゃって…すっかり忘れてたな。

 「ちくしょう、あそこの酒屋しまってるよな」

 

 結局、仕事帰り寄ったコンビニに発泡酒と度数の強めなチューハイを買いに行く。肌寒くなって来たため、軽く外套に仕事用のジャケットをはおって外に出る、近くのコンビニまで歩く道すがら後ろから強いライトがあたって、振り返った。

 あまりのライトの眩しさに思わず目を瞑る、一瞬見えたのは大型のトラックのような車両だった。




 目を開けるとそこは何もない空間だった。上も下もわからないような、不思議な、そして不気味な空間に漂っていた。


 「目が覚めたようだね」

 

 突然の声に驚くと目の前に150センチほどの猿顔で羊角を顔の横に生やした男とも男の子とも判別がつかない奴が現れる。やたらと小綺麗で高そうなスーツを纏い、刺繍の細やかなベストの内側から懐中時計を取り出して見ている。


 「うん、僕は悪魔さ、君みたいな欲が深くて虚栄心ばかりデカイ奴が絶望するのが大好きなんだ」


 とんでもなく失礼なことだけ伝えてくるが肝心な情報がない。イライラして怒鳴りそうになる前に悪魔とやらがさらに話し始める。

 

 「うん、君には異世界ってやつに転移して貰おうと思ってね」


 とんでもないことをさらりと言って来る。異世界って最近アニメなんかもやってる、あの異世界か。

 

 「そうだね、ご想像通りの異世界だよ」


 声にも出して無いことを先回りするあたり、こいつは見た目だけじゃなく本当に悪魔らしい、しかし転移とかって、神様が出てくるんじゃないのか、チートとかあるんだろうか。


 「君も大概、失礼な上に動じないね、まあいいさ。チートはあるよ、ただし悪魔だからね、無償では無いんだ」


 そう言ってタブレット端末のようなものを取り出す悪魔。


 「いや、なんでタブレット」

 「この方が操作しやすいだろう。僕はある程度イメージを具現化出来るからね、魔導書なんて見せられて選んでなんて言われても嫌だろう」


 ずいぶんと配慮のいい悪魔だ。いや罠かも知れんがとりあえずタブレットを覗くと


 スキル抽選 下をタップ 


 とシンプルに書かれておりタップ部分には猿顔羊角の悪魔がデフォルメされ可愛らしい2等身キャラで舌を出して笑っている。


 少し不安はあるものの押してみるとファンファーレとともにSSRの文字、そして

 

 おめでとう!!

 スキル 剣豪

 代償 肝臓


 となっていた。


 「おめでとう、いきなり凄いのをひいたね。ちなみに肝臓は代償として持っていくけど、悪魔のチートだから、別にそれで死んだりはしないから安心して」

 「いや、安心出来ねーよ、俺、肝臓無くなったの、え、いやヤバいだろう」

 「大丈夫だよ、ちゃんと生きてけるから、でどうする、これで転移する」


 俺は考える。剣豪のスキルは文字通り剣が強いスキルだろうが、もし転移先が魔法が強く、剣が廃れている可能性もある、それにこういうチートならあのスキルもあるはずだ。

 「なあ、俺が考えてるスキルはあるのか」

 「ん、あー、確かにあるよ」

 「これは何回でも引けるか」

 「代償は腕や指、あとさっきの内臓なんかの体の一部や聴覚や視覚なんかの機能をスキルのレベルに応じて奪ってくんだけど、君が引きたいなら、いくらでも、もし両腕が無くなっても引きたいと念じれば引けるようにするよ」


 やったぞ、引きたい放題だ。

 俺は引き続けた。

 属性魔法に生活魔法、格闘術に並列思考なんてのや、イベントリにフラグ建築士なんて余計な称号みたいなものまで、


 両手足が無くなり聴覚を失い、内臓もいくつか無くなった、視覚も半分奪われて、そろそろひいてくれないとヤバい。


 「あー、そろそろやめたら、って、もう遅いか」

 「今さら辞められるか、あのスキルをひいたら、俺の無双チートハーレムが始まるんだ」


 そして、遂にその時が来る。

 視覚が完全に奪われてからは脳内に直接写るようになった画面に


 おめでとう!!

ULRだよ


 スキル 完全回復 

 効果 全ての怪我や欠損、病気、

    状態異常から回復

    「完全回復」と唱えると発動 


 代償 視覚 嗅覚


 やったぞ、これで大逆転だ。そう喜んでいると悪魔のあきれた声が脳内に響く。

 「また、すでに代償でとられている機能が被ったから、別のものを貰っていくよ。もう満足みたいだし、僕は行くけど、少ししたら転移するから頑張って」


 悪魔はそう言い残して去ったようだ。

 何を奪ったか知らないがこのスキルがあれば全て元通りで無双チートのはじまりだ。なにせ、大量のスキルが俺にはあるんだから、さてじゃあ唱えますか。


 「…………」

 「……!…………!!………………!!!」


 声が出ない!!

タグの異世界転移は保険ですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 単純に怖いし、テンプレに対して皮肉も利いてるし、短くまとまってて読みやすい。 こういうの好きですわ!面白かったです。 [一言] タグがバッ「ト」になってるので何か意味があるのかとしばらく…
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