第五話 いつだって
思えば、いつだってエミリーはそういうやつだった。
「ギル、フィル、帰ろー」
「うん」
「ったく、しゃーねぇなぁ」
これは、今から約五年前の話。
エミリーたちは幼いときから三人で登下校をしていた。
「ねぇねぇ、今度さ、三人でどっか遊びにいこうよ」
「うん、いいよ」
「俺は行かねぇぞ」
幼いときから遊びに誘ったりするのはエミリーで、フィリップは快諾し、ギルバートは断るのがいつものパターンだった。
「もう、何でいつもそう言うの?たまには三人で遊ぼうよ」
エミリーがギルバートに膨れっ面で文句を言うのもいつものパターンだ。
そして、結局ギルバートは無理やり連れていかれるのだ。エミリーがフィリップを引き連れて、彼の家に押し掛けるから。
だけど、このときは違った。
遊びに行こうと約束したその前日、フィリップの両親が事故に巻き込まれて亡くなったのだ。
フィリップは一度に両親を喪ったショックで、しばらく学校にも来なかった。
エミリーは自身が父を喪っているからこそ、フィリップの気持ちがよくわかり、そして、エミリー以上に傷ついていることがわかりきっているから、ただただフィリップが少しでも傷を癒して出てくることを祈っていた。
ただ、フィリップの両親が亡くなってから、フィリップと一緒に住むことになったフィリップの叔母とはたまに会って様子を聞いていたみたいだった。
「エミリーちゃん、フィリップのこと気にしてくれてありがとうね。今も頑張って心の整理をしているみたい」
「そうですか。はやく心の整理ができるといいんですけど……こればっかりは難しいですよね」
「そうね。でも、きっと大丈夫よ。あの子のことを気にしてくれている子が身近にいるから」
エミリーはギルバートに、フィリップの叔母から聞いたフィリップの様子を訊かれてもいないのに教えていた。ギルバートはそれに対して、適当に相づちを打っていただけだった。
それでも、そうやってエミリーも消化していたのかもしれない。フィリップと自身を重ねて、父のことを思い出したことなどを。
「おい、エミリー。あいつのことはほっとけよ」
「そりゃ、フィルには直接関わったりしないけど、だからって本当にほっとくわけにもいかないでしょ?」
あるとき、ギルバートはフィリップのことばかり考えて、ちょっと気持ちが沈んでいるエミリーにうんざりして冷たく言ったのだ。そして、エミリーはそれに反発した。
いつもギルバートが冷たく何か言えばエミリーはそれに反発する。それはもう決まったことのようなものだった。
だけど今回はいつもとは少し状況が違う。
「ギルだって、フィルのこと心配でしょ?」
「俺が?フィリップのことを?そりゃ、同情はするけど、いつまでも殻に閉じ籠ってるようなやつは嫌いだね。心配するまでもねぇ」
幼なじみに対して、あまりにも冷たすぎる言葉に、エミリーはもう何も言えなかった。
そんなエミリーに、ギルバートはさらに言う。
「お前は人のことばっかだな。周りのやつのことばっかり気にして、自分のことは気にしてねぇ」
「……どういうこと?」
ギルバートの言葉の意味が、エミリーにはよく飲み込めなかった。
「フィリップと自分のこと──────……」
重ねて、父を喪ったときのことを思い出して密かに泣いてるくせに。
ギルバートは最後まで口にはしなかった。それを言うと、エミリーの中の何かが壊れてしまいそうな気がして。
それに、他人が指摘したところで何も変わらないだろう。エミリー自身で気づかなければならない問題だ。
「何?」
ギルバートが口を噤んだことを疑問に思ったエミリーは真剣な顔で聞く。
「……何でもねぇよ。自分で考えやがれ!」
「何それ。自分が言い出したくせに!」
結局、ちょっとしたいつもの口喧嘩をしながら帰ったのだ。
エミリーは自分の弱味を見せない。父を喪ったときも、ほとんどそうやって過ごしていた。
そして、周りのことを気にかける。
もちろん、悪いことじゃない。ただ、損をする生き方だと思う。
だから、ギルバートはエミリーが少しでも傷つかない道を歩けるようにしたいのだ。
結局、今もエミリーは変わらない。
エミリーはまたギルバートを気にかけ、弱味を見せようとしない。
いつになったらあの性格がマシになるだろうか。