第五十三話 上を目指すために
カルロスがルーインに属することは、もはや最初から決まっていたことだった。
父親がルーインのボス。カルロスは父親が敷いたレールに沿って動いているだけ。
とはいえ、カルロスに何の意思もないわけではない。どうせルーインに属するなら上を目指したいという野心くらいはある。
ただ、ルーインのボスの息子という肩書きのせいで、それをよく思わない連中は思った以上にたくさんいた。
──────ボスの息子だからって、調子に乗ってるよな
──────ボスの息子って言っても、たいして強くないくせにね
──────ってかさ、ただの幹部に収まってるあたり、あんまボスに期待されてねぇよな
耳にするのはそんな耳障りの悪い言葉ばかり。誰もカルロスを一人の人間として見ない。「ルーインのボスの息子」という枠で見る。
だから、幹部より下の人間に、ルーインのボスの息子であるということが広まらないように、カルロスは画策した。おかげで、幹部以下でそのことを知っているのは自ら信用して話したごくわずかな人間のみ。フィリップもそのうちの一人だ。
フィリップの存在を、ひいてはエミリーの存在を知ったのは、まったくの偶然だった。
当時、ルーインという組織はできて数年。どんどん規模を大きくしていこうと、一番動いていた時期だ。
だから、あの頃は片っ端からある程度、戦闘組織の整っている国を狙っていた。フィリップが生きた国も、そうやって狙われた。特別な理由など、何もなかった。
あのとき、カルロスはその襲撃に直接関わってはいなかった。というか、幹部で関わっていた人間が、そもそもいなかった。幹部が出るほどでもないというのがボスの考えだったからだ。
カルロス自身も、それほど気にしていなかった。今はルーインの脅威を見せつけるときだから、ボスの考えに従っておとなしくしていようと。
だけど、何気なくあの国のことを調べていると、貴重な存在である多能力者がいることが分かったのだ。そこからは、必死になってその他能力者のことを調べた。
そして、行きついたのがフィリップだった。
カルロスが気付いたころにはもう襲撃は終わっていて、フィリップも死んでいた。
カルロスひとりではどうにもできない。そう考えて、カルロスは慌ててボスに頼んだのだ。
あの国には多能力者がいた。その幼馴染が、今回の襲撃で死んでいる。それを使えば、多能力者を手に入れることができて、誰もルーインに歯向かうことはできない。
だから、フィリップを蘇らせてはくれないかと。
ルーインは、いろんな悪人の集まり。中には蘇生能力を持った人間もいた。だから、ボスさえ納得させられれば、簡単に蘇らせることができる。そう考えたのだ。
結果として、ボスはカルロスが思っていたよりも簡単に納得してくれた。
ボスはついでと言わんばかりに他に使えそうな死人がいないか確認して、フィリップの他にも何人か蘇らせた。それだけ力が欲しかったということだろう。
だが、現在も生きているのはフィリップを入れてごくわずか。ボスは使えないと判断したらまた死体に戻していた。
フィリップのことはカルロスがうまく言っているうえに、多能力者との貴重なつながりということで今のところは何もないが、いつ何があって消されるかなどわからない。消されてしまえば、カルロスが真に成し得たいことは成し得なくなってしまう。
あまりゆっくりはしていられない。けれど、焦ってもいい結果は得られない。
だから、カルロスは焦りを見せず、どっしりと構えているのだ。焦っていることを悟られて、フィリップにへまをされては困る。
それに、フィリップには慎重に動いてもらわなければならない。なんとなくだが、カルロスにもフィリップが不安定な状態であることは感じ取れる。
せめてそれが落ち着くまでは、このままどっしりと構えていようではないか。幸いにも、フィリップは賢い。きっと、カルロスの期待以上の動きをしてくれるはずだ。
(お前にすべてを賭けるぞ、フィリップ)




