第五十二話 必要な休み
毎日、昼に行うエミリーの探索能力の特訓。夜にまったく動けなくなるのは危険なので、特訓は昼にすると決めている。
そんな生活になって、数週間が経っただろうか。エミリーにはかなり疲労の色が見えるが、それでもエミリーは毎日欠かさず二時間の特訓を行っていた。
こんな状況がいつまでも続いていいわけがない。エミリーの身体が本当に悲鳴を上げてしまう前に、ちゃんとした休息をとるべきだ。
だけど、どうやって。
ギルバートはずっと考えている。頑固なエミリーを休ませる方法を。それでも、いい方法は思いつかない。
いつだって、結局最後に折れていたのはギルバートの方だ。こういう時にエミリーを納得させることができた記憶が、ギルバートにはない。とはいえ、今回に関しては、ギルバートも折れるつもりはないけれど。
あのとき、エミリーはどうしていただろうか。
どうして、ギルバートは休むことも受け入れられるようになっただろうか。
「……エミィ、ちょっといいか」
これで、エミリーを休ませることができるかどうかはわからない。
だけど、ちゃんと伝えることができたなら。エミリーも少しは休もうと考えてくれるかもしれない。
ギルバートは少しの希望をもって、エミリーに声をかけた。
エミリーが動けるタイミングで声をかけたギルバートは、ある場所へ向かって歩き出した。
その場所というのは、今いる国の人たちの会話で知った場所。エミリーが好きそうだと思ったから、気分転換を兼ねてどこかのタイミングで行こうと思ったのだ。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「まだまだ、かかる。途中、どっかで休憩してもいいかもな」
「そんなに遠くまで行くの?……あ、もしかして、先に進みたかった……?」
「違ぇよ」
どこに行くかを伝えずにいると、エミリーは勘繰ったらしい。変な心配をされては困るから、ギルバートは即答する。
けれど、行き先は伝えない。伝えては面白くない。そのまま歩みを進めるだけ。
途中、休憩を挟みつつも一時間半ほどが経った。そうしている間に、いつの間にか山を登っている。
山登りと言えば大変なイメージがあるが、山と言えども整備されている上にそこまでの急斜面でもないからか、周りには他にも山を登っている人たちがいた。
ここまで来れば、目的地はすぐそこ。ちょうど日も傾いて、いい頃合いだ。
「ほら、ここだ」
「……!」
エミリーは目の前の光景に息を呑んだ。
「きれい……」
目の前に広がるのは色とりどりの花畑。夕日に照らされて、その美しさはさらに際立っている。
「本命はこれからだ」
「え……?」
今の状態でもじゅうぶん綺麗だが、まだこれで終わりではないらしい。さらに暗くなり、星空が照らす。
さらに──────……
「わぁ……!」
イルミネーションが辺り一面を埋め尽くす。けれども、決して花の存在感を薄れさせない。その美しさは、今までに見たことのないものだった。
「この国のちょっとしたテーマパークらしい。日によっては、能力を使ったショーもあるんだと」
「そんなの、よく知ってたね」
「たまたま耳にしただけだ」
お前が好きそうだと思って。
そう口にすると、エミリーは少し驚いた顔をして、やがてふわっと優しく微笑んだ。
「ありがとう、ギル」
「礼を言われるようなことはしてねぇよ。お互いに、良い気分転換になればいいと思っただけだ」
最近はいろいろあったし、それもあってエミリーの探索能力の特訓が始まった。おかげで、最近はお互いに余裕がなくなっていたように思う。
旅を始めた当初は、たまにカフェなどで食事を楽しんだり、景色を楽しんだり、ルーインという巨大な悪に挑みつつも、旅を楽しもうという余裕があった。少しでも活力になればという気持ちもあったと思う。
余裕がなくなった今、初心に帰るべきだろうとギルバートは考えたのだ。
「……エミィ。お前が能力を使いこなそうと必死になる気持ちはわかる。けど、それで体を壊したら元も子もねぇ」
ギルバートだって焦りはある。必死になっても追いつくかわからないルーインとの差に苦しめられている。
だけど、体を壊してしまえば、もっと追いつけなくなってしまう。歯が立たなくなってしまう。それでは、頑張っても無駄になってしまう。
それに、それだけじゃない。
「あのとき、俺に休めって言ったお前なら、わかるだろ?あんま、心配させんなよ」
ギルバートがそう言うと、エミリーはハッとした表情をした。やがて、眉が下がる。
「……そうだね。ごめん」
こんなことで、簡単にエミリーを抑制できるとはギルバートも思っていない。きっと、また無茶をするだろう。
でも、ギルバートが伝えたかったことは、ちゃんとエミリーの心に届いたはずだ。ならば、今はそれでいい。
今、ほんの少しでも休んでくれるのなら。休むことも大切であるとわかってくれるなら。




