第五十一話 もどかしい気持ち
探索能力の探索範囲を広げる。
言葉にするのは簡単だが、実行するとなると途端に難しいそれに、エミリーはかなり苦戦していた。どれだけ繰り返しても、一向に広がる気配を見せない。
探索範囲を広げようとするための集中力、普段とは違う能力の使い方、それに伴った体力量。とにかくすべてが普段の倍以上に削られ、さすがのエミリーも疲弊してくる。そのうえ、まったくもって探索範囲が広がる様子がないのなら、なおさら。
それでも、エミリーは毎日欠かさず探索範囲広げる特訓を行った。いつか、何かしらの感覚が掴めることを信じて。
一方で、ギルバートはエミリーの身を案じていた。
毎日、ギルバートが指定した最高時間、二時間をきっちり守っているのはいい。ただ、どんなに前日の疲れが残っていようと毎日二時間行うのとでは、また話が変わってくるというもの。
エミリーはきっちり二時間の特訓を行う。当然、毎日それを行うということは相当の疲労が蓄積されるわけで、特訓時間以外の時間に頭が痛いと横になったり、吐き気がひどくて一ミリも動くことができなかったりということが多くなっている。
別に、先に進めないことはどうでもいい。ただ、そこまで無理をする必要があるのかと思ってしまうのだ。
それに、エミリーはしんどければしんどいほどそれを表に出さない。今はまだ、頭が痛いだとか吐き気がするだとかを訴えてくるが、これをまったく言わなくなる可能性もあるのだ。それが一番、ギルバートは恐ろしい。
エミリーは頑固だ。だから、自分が口にしたことはなかなか曲げない。「大丈夫」と一度口に出せば、そのことに関する弱音などは吐こうとしない。
昔からそうだ。ギルバートがあの手この手で吐かせようとしても、笑ってかわされる。
特に、フィリップが死んでからは。
──────ギルがいてくれるなら、私はどんな世界だって生きていける
──────私はギルが生きてそばにいてくれるなら、それで十分だよ
そう言って、ギルバートに心配させまいとする。安心させようとする。
それは悪いことではないのかもしれない。けれど、ギルバートとしては、そんなに頼りにならないものかと思ってしまう。
(まぁ、でも……それは、俺のせいなのかもしれねぇな)
思い当たる節はいろいろある。特に、フィリップが死んでからのことについては。
あの頃のギルバートは荒れていた。誰の言葉にも耳を貸さず、ただただ無理をして自分を追い詰めていた。
そのあとも、フィリップが絡むたびに冷静さを欠くことが多くて、エミリーには心配をかけていると思う。
だから、仕方がないのかもしれない。ギルバートが文句を言える立場ではないのかもしれない。
だけど、心配しないなんてことは絶対に出来ないし、いつまでもただ見守っているだけというのも性に合わない。もうしばらくは黙って見守っていてあげるけど、少ししたら現状を変えるべきだろう。ただ、どう声をかけるべきかは迷うけれど。
(今になって、あの頃のエミィの気持ちを思い知るとはな)
あの頃のエミリーの葛藤、不安、想い。それをちゃんと知るには、あまりに遅いだろう。
──────ちゃんと、休めてる?
──────みんな心配してるんじゃない……!
──────本当に休まなかったら、倒れちゃうじゃない!
──────一人で抱え込まないで……?
だけど、それを言っていたエミリーが無理をして抱え込んでいるのは、ギルバートには解せない。
確かに、ギルバートは頼りないかもしれない。でも、ギルバートに弱音を吐けというのなら、エミリーも弱音を吐くべきで。抱え込まずに頼るべきところは頼るべきだろう。
今はまだ様子を見る。けれど、このもどかしい気持ちをいつまでもそのままにしておくつもりはギルバートにはない。
だから、ギルバートはエミリーをどう休ませるか、どう納得させるかを考え始めた。




