第五十話 探索能力
エミリーの探索能力。それは、探索したい人や物の特徴が分かっており、なおかつ今いる場所からそう遠くない場所にいる場合にしか役に立たないものだ。
特徴がわかっていればわかっているほど見つけることが容易くなるとはいえ、探索範囲が狭い現状では、フィリップやルーイン関係者を探すことは無理に等しい。
少なくとも、ルーイン側にワープ系統の能力を持つ人物がいることは、これまで何度もギルバートが攫われたことからわかっている。ただでさえ捜索範囲が定まらない。そんな状態では、エミリーの現状の能力値ではとてもではないが探すことなどできない。
これが、多能力者としての唯一の欠点だろう。多能力者と言えど、何でもできるわけではないし、すべての能力を最強にすることはできない。
この探索能力は、戦闘員としてもかなり使えるものだから、本来であればもっと使えるようになっていてもいいのだ。エミリーは使いたい能力はとことん努力して使えるようにしてきたタイプだから、不可能ではない。
では、なぜこの能力は伸ばすことができなかったのか。
それは、情報処理が難しく、脳がキャパオーバーを起こして酷く気分が悪くなるからだ。その気分の悪さは相当なもので、特訓の仕方によっては何日も寝込むことになるほど。
だけど、今はそんなことに構っていられない。どれだけ気持ち悪くなろうと、この能力を自分のものにしたい。
そうすればきっと、もっとフィリップやルーインに近づくことができる。宛てがない今に比べれば、心の余裕も出てくる。
だから、エミリーは覚悟を決めた。
エミリーはまず、ギルバートに探索能力の件について話をした。
探索能力を向上させたいこと。
ただ、その特訓はハードでとても厳しいこと。
寝込んでしまう可能性が高いため、迷惑をかけてしまうこと。
すべてを話した。どうやったったって二人旅なので、迷惑をかけてしまう。だから、エミリー一人で勝手に始めるわけにはいかなかった。
ギルバートはエミリーの話を聞いて、しばらく悩んでいるようだった。当然だろう。ギルバートはできる限り、エミリーに無理をしてほしくないのだから。
とはいえ、ギルバートだってできることならエミリーの探索能力を使ってフィリップたちに近づきたい。ならば、できる限り協力してやることが、お互いにとって良いのではないかとも考えていた。
しばらく悩んだ末に、ギルバートはこの件を承諾した。ただし、必ず特訓はギルバートの見ているそばで行うことと、一日の特訓時間を二時間までにするという条件を付けて。
エミリーはその条件をのんで、その日から早速特訓を始めた。
探索能力の特訓。それは、いったいどんなことをするのか。
基本的には、実際に何かを探すという特訓をする。ただ、できる範囲のことをしても意味がないし、できないことをすべて詰め込んでも無理な話。
まず、エミリーは探索範囲を広げることから始めることにした。
今回は、ギルバートにエミリーの探索範囲外にあるとされる場所を任意で地図上から選んでもらった。そこを、エミリーが能力を使って探して向かう。
行ったことがない場所なので外観などはわからないが、どこにでもあるような公共施設を選んでもらったので、外観が分からなくとも探すことは可能だ。もっとも、探索範囲外でなければ、の話ではあるが。
まずは、どの方角にあるのか。それだけでも探ることができれば、まずまずの滑り出しとなるだろう。
エミリーはさっそく目を閉じて集中し、目的の場所を探る。いつもなら、それで問題なく探すことができるのだが──────……
「っ……」
目を閉じているのに、視界がぐにゃりと歪むような感覚がして、エミリーはふらつく。幸いにもギルバートがすぐに支えてくれたので、倒れることはなかった。
「ごめん。気持ち悪い……」
エミリーは口元を押さえてそう呟いた。
目を閉じる前と打って変わって顔色が悪くなり、本当に気分が悪そうだ。
「やめておくか?」
「……ううん。ちょっと休んだら、もう一回、挑戦してみる」
すぐにできるようになるだなんて、二人とも考えていない。長い時間がかかるだろうと覚悟している。
だからこそ、エミリーは立ち止まっていられなかった。時間がかかるとわかっているのだから、少しでもその時間が短くなるようにしたかった。
それに、能力の向上に勤しむギルバートを見たから。
ギルバートが傷を作ってでも努力しているのだから、エミリーだって気持ち悪い思いをしても意地でもこの能力を向上させたい。
──────どうして私は多能力者なんだろうって
多能力者としての意味を、見出すためにも。




