第四十八話 休まらない日々
能力を扱うこと。この世界でのそれは、子どもが成長とともに言葉を覚えること、身体の使い方を覚えることなどと同じこと。つまり、特別な訓練の場などはない。日常生活の中で身に着けていく力だ。
だけど、特にその能力を使って人々を、国を守る戦闘員には特別な訓練の場が必要だ。能力をうまく、強く扱うため、能力の幅を広げるために。
その訓練メニューは個々に合わせて作られる。そのメニューは今も、二人を支えるものとなっている。
しかし。
多能力者のエミリーには、そのメニューが本当に自分に合っているものなのかわからなかった。多能力者というほとんどいない存在に合ったメニューなど、そうそう組み立てられるはずがない。
本当はどんなメニューが効率がいいのか。
どんなメニューならもっと能力を伸ばせるのか。
どんな能力を伸ばすことが一番いいのか。
そのすべてが謎だらけ。多能力者だからこその悩み。
それに、鬼婦人が言っていた。
──────……娘、その力は神のものだ
神の力だというのなら、どうしてルーインの脅威となれないのだろう。鬼婦人に敵わないのだろう。
もっとちゃんと能力を伸ばすことができたなら、脅威となれたかもしれないのに。
「……壊す方に使えば、楽に」
そんな風に能力を使うつもりはないけれど、でも。
エミリーは今、ルーインを倒すために能力を使っている。それはルーインを壊すことにつながるはずなのに、楽にはならないし困難な道だ。
だから、あれはただの戯言。そう思いたいのに、鬼婦人があまりにもしっかりと断言するものだから、そう思えない。
エミリーの存在意義は何なのだろうか。
「おい、エミィ」
「わっ、びっくりした……」
いろいろ考えこんでいると、すぐそばにギルバートが立っていて、エミリーは驚いて振り返る。
「何回も声かけたぞ」
「うそ、ごめん。気づかなかった」
「……お前、最近」
そこでギルバートが言葉を止めるものだから、エミリーは不思議そうに首を傾げた。
「最近、何?」
「……いや」
「何よ、気になるじゃない」
教えてよ、と何度か声をかけると、ギルバートは観念したように口を開いた。
「最近、なんか変じゃねぇか?」
でも、あまりにざっくりしすぎていて、エミリーの頭にはクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。
というか、変っていったい、どういう風に変だというのか。
そんなエミリーの考えを見透かしたのだろうギルバートが、躊躇いつつ言葉を続ける。
「なんていうか、何か……考え込んでねぇ?」
「え……」
「いや、悪い……俺のせいなのもわかってる。幾度となくフィルに連れ去られるし、暴走もするから、不安にさせてるって。けど、それだけじゃねぇように思う」
エミリーは驚いた。まさかそこまで気づいているとは思わなかった。と同時に、エミリーも心配をかけていたのだと、少し反省する。
だからといって、この件をギルバートに話すつもりはないけれど。
「あー……ごめん。ちょっと最近、いろいろあったから思うところがあって。答えのない問題を考え続けてるっていうか……でも大丈夫だから」
エミリーは笑顔を見せてそう言った。
大丈夫。何も心配することはないと。一時的なものだから、すぐに元に戻ると。
「ギルも、自分を責めなくていいよ。不安にさせちゃうのはきっとお互い様だし。私はギルが生きてそばにいてくれるなら、それで十分だよ」
ギルバートはいつだってエミリーを支えてくれている。それは紛れもない事実だ。ここまでの答えはどれも嘘ではない。
だけど、ギルべーとの視線がほんの少し鋭くなったことに、エミリーは気づかなかった。
(けど、ちゃんと、休めてんのかよ)
本音を隠したがるエミリーに、ほんの少しの怒りをにじませていたことに。




