第四十一話 多能力者として
エミリーはギルバートの気配をたどって、森の中に入っていた。
かなり近くにいることは気配からわかるが、はっきりとした場所まではわからない。エミリーはギルバートの名前を呼び続けた。
「ギル、いるなら返事をして!」
早く見つけなければならない。またギルバートが暴走しないとも限らない。
何より、またエミリーの知らない場所でギルバートに背負わせたくはない。そばにいられなかったという後悔だけはしたくない。
とにかく早く見つけなければ。
その思いが焦りとなり、ほんの少しだけエミリーの視野を狭めた。そのせいで、数秒気づくことに遅れてしまった。
突如として響いた轟音。立ち込める砂煙。
エミリーは目に砂が入ってしまわないように庇いながら、轟音がした方に目を向ける。そこから聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。
「ネズミがおると思ったら、娘か」
「……鬼婦人」
エミリーは鋭い視線を鬼婦人に向けた。けれども、冷静さは保ったまま。決して隙など見せるつもりはない。
それに、鬼婦人には聞きたいことがある。こんなにも早く再会できたことは、エミリーにとってはほんの少しラッキーなことかもしれない。
「まさか、こんなにすぐに会うことになるとはのぉ……戦いは好きじゃが、しつこい奴は嫌いぞ」
「……私もしつこい人は嫌い。でも、あなたにはもう一度、会いたいと思ってた」
エミリーは冷静に、真っ直ぐに鬼婦人を見据えてそう言った。
エミリーの言葉に、ほんの少しだけ鬼婦人の視線が鋭くなったような気がする。そのことに少し身構えつつ、エミリーは鬼婦人の次の行動を待った。
「ほぉ……その理由は?」
「あのとき、あなたが言った言葉……神の力だから手放せって、その言葉の意味を教えてほしくて」
力というのは、多能力のことだろう。そして、多能力という能力を「神の力」と表現するのも何となく理解できる。
でも、だから手放せというのは、少し理解できない。「神の力」と表現したところで、ただ他とは違う特殊な能力なだけ。それ以外は他の能力と何も違うところなどないはずなのに。
鬼婦人は敵だけど、なぜかあの言葉だけはエミリーのために言っているような気がした。だからこそ、エミリーはあの言葉が必要以上に引っかかった。
もしかしたら、巡り巡って鬼婦人にとっても良くないことが起こるのかもしれない。だけど、それだけではない気がしたからこそ、その真意を聞きたかった。
「……ずっと昔から、思っていたことがある。どうして私は多能力者なんだろうって。どうして多能力者として生まれてきたのか、多能力者に求められることは何なのか、ずっと考えているけれど未だに答えは出ない。でも、あなたの言葉の意味を聞けば、少しはそれがわかる気がするの」
多能力者は滅多に生まれない貴重な存在。そんな多能力者に生まれたエミリーには、何かすべきことがあるような、あるいは知らぬ間に何かを起こしてしまいそうな、そんな気がずっと昔からしていた。
多能力者として何かできることがあるのであれば、エミリーは何だってやるつもりだ。戦闘部隊に入ったのだって、ただ父が戦闘員だったから、約束をしたから、ギルバートやフィリップもいるからと選んだわけではない。心のどこかで、多能力者として何か人の役に立つことをしなければならないと思っていたからだ。
鬼婦人はただ黙って、鋭い視線を向けながらエミリーの言葉を聞いていた。
エミリーもまた、静かに鬼婦人をまっすぐに見ていた。
やがて、鬼婦人が口を開いた。
「そうじゃのぉ……娘の言い分はなんとなくわかったが、わしに教えてやる筋合いもないのぉ。じゃが、まぁ……わしに勝ったら教えてやらん事もないな」
そう言って笑う鬼婦人に、エミリーは少しばかり顔を強張らせた。
けれども、どのみちただで帰してはくれないだろう。それならば、戦う以外の選択肢などエミリーにはない。早く終わらせて、ギルバートを見つけなければ。
エミリーは鬼婦人と戦うため、戦闘態勢に入った。




