第三十八話 偽物
何度目だろう。ギルバートが消えたのは。
エミリーは空っぽの部屋を見て眩暈がしてきた。
ギルバートが何も言わずにエミリーの前から姿を消すことはない。
だけど、よほど巧妙に隠しているのか、何かしらの能力が使われた形跡もない。
まったくもって何もない。これではギルバートを探すことができない。
エミリーは冷や汗を流した。もういい加減にしてほしい。
そもそも、どうしていつもギルバートばかりが消えるのだろうか。ここまでずっと、ギルバートが消えたときにはフィリップの接触があった。ということは、おそらくは今回もフィリップが関わっているのだろう。
しかし、なぜ毎回ギルバートなのか。フィリップとかかわりがあるのはギルバートだけではない。エミリーも同じだ。
むしろ、エミリーの方がフィリップとは長い時間を過ごしてきているはずだ。エミリーはいつも近くで見守り、フィリップを助けてきたのだから。
(どうして、今まで考えなかったんだろう……)
一つ、可能性がある。それが正しければ、まず間違いなくフィリップは──────……
エミリーは真剣な瞳で前を見据えた。
とにかく、今はギルバートを見つけなければ。
ギルバートは何度目かの光景に、隠そうともせずにため息を漏らした。
見覚えのない部屋。
その中心にあるたった一つの椅子に拘束されるギルバート。
目の前には過去の彼からは想像もできないほど怪しい笑みを浮かべたフィリップ。
またやられた。エミリーはどうしているだろうか。また不安にさせてしまっているだろう。
ギルバートはエミリーのことを考え、一刻も早くこの状況を脱することに思考を切り替える。
「余裕だね、ギル」
「あ?」
そんな様子を見たフィリップはそんな風にギルバートに声をかける。それに対し、隠そうともせずにギルバートは怪訝そうな顔をした。
「いつもいつも無事に帰れるとは限らないよ。他のことを考えている余裕なんかないと思うんだけど」
フィリップの言葉に、ギルバートは眉をピクリと動かす。
「……今日という今日は、何か仕掛けるってか?」
「そういうことも想定した方がいいよっていう忠告だよ」
「はっ……んな忠告いらねぇよ。てめぇなんかに負けねぇ」
「僕だっていつまでも昔のままじゃ──────……」
「偽物のてめぇにゃ負けねぇっつってんだよ」
鋭い視線を向けて、冷たく言い放つギルバート。そんなギルバートに、フィリップはわざとらしく肩をすくめた。
「……ひどい言い草だね。幼馴染に向かってさ」
「幼馴染だぁ?てめぇみたいな幼馴染がいた記憶はねぇな」
「人が変わったら偽物呼ばわり?」
「てめぇはマジもんの偽物だろうが」
「何を根拠に」
フィリップの言う通り、確証のある根拠などない。だけど、ギルバートの全身が叫んでいる。これはフィリップなどではないと。フィリップの皮を被った別物だと。それは、このフィリップに会った時からずっと感じていることだ。
体は確かにフィリップのものかもしれない。だけど、中身がこうも違うと、最初に疑った洗脳の可能性もそこまで高くないのではないだろうか。
もちろん、可能性としてないわけではない。ただ、それならば執拗に昔馴染みの人間に会う必要があるだろうか。何かの拍子で洗脳が解かれることもゼロではない。ならば、昔馴染みの人間に会うことはリスク以外の何物でもないはずだ。
だとすれば、中身そのものが別の何かに変えられてしまったと考える方が、そのリスクが軽減されるように思う。リスクがないのであれば、昔馴染みの人間に何度も会うことはある意味ではメリットとなる。心理的なダメージが見込めるからだ。
実際、これをフィリップとは信じていなくとも、こうして会うことはギルバートにとって苦痛だ。フィリップの体を好き勝手使われていることが気に食わない。フィリップは絶対にこんなことを望まない。
「俺はお前をフィルだとは認めねぇ」




