第三十話 次の目的地
ギルバートとフィリップが再び相まみえた場所。結局、あの場所がルーインの何なのか、何をするための場所なのかはわからないままに、エミリーとギルバートは国境を越えた。
ずっと、ルーインが何をしようとしているのかがわからない。何もかもが謎に包まれている。だから、前に進むことしかできない。
本当ならば、敵の情報をもっと得て、出会ってしまったときにできる限り最善の行動をとれるようにしたいけれど。こうも情報を得られないと、ただ力をつけて前に進むしかない。
エミリーもギルバートも、旅をしながら時々手合わせをして互いに高め合っている。二人でやれることなど限られているけれど、それでもやらないよりはマシだ。体が鈍ってしまわないためにも、戦闘訓練をすることは大切だろう。
それに、ルーインに二人の存在を知ってもらうためにも、戦闘訓練など少し目立つ行動をする必要がある。ルーインの目に留まれば、こっちが追いかけずとも姿を現してくれるかもしれない。それは危険を伴うけれど、それでもあわよくばという淡い期待くらい抱かせてほしいものだ。
「ずいぶんと賑やかな街だね」
メリッサと出会った街もそこそこ栄えて賑やかな場所ではあったが、ここは祭りでもやっているのかと思えるほど賑やかな街だった。
エミリーやギルバートが生まれ育った国も、かつてはこの国のように賑やかで栄えていた。戦闘部隊という仕事は昔からあったけれど、それはもしもの時の自衛のもので、争いなど知らない国だった。
だから、ルーインに攻め入られるまでは誰も考えもしなかった。国が戦争に巻き込まれることなど。
この国も、今は平和でもいつかは戦場となってしまうかもしれない。そんな恐ろしさをこの世は孕んでいる。
それを知っている二人は、そんな恐ろしさを少しでもなくすために、無謀ともいえる敵に挑むのだ。かつての大事なものを取り戻すために。
「これからどうするの、ギル?この間は結局、ルーインに関する情報は何も得られなかったし……」
“闇都市”では、ギルバートがフィリップと再び邂逅したのみで、ルーインに関する情報は何も得られなかった。それはつまり、次に目指すべき場所もわからないということ。
とりあえず国境を越えたはいいものの、これからどこへ向かうのか、何をするべきかなどは何も考えていない。できることといえば、怪しい情報を得るということくらいだろう。そんな怪しい情報は、噂程度で信憑性のかけらもないだろうけれど。二人にとってはないよりもマシな情報だ。
「このまま適当に進んでても埒が明かない。フィルが俺たちの前に現れたとしても、ルーインが都合よく俺たちの前に現れるわけがない。何でもいいから情報を得るぞ」
ギルバートの鋭い視線。フィリップと会ってしまったがために、少々気が立っているのだ。
エミリーはギルバートの言葉に強く頷くだけだった。
“闇都市”にあるルーインのとある研究施設。そこで、十二歳程度に見える少女が怪しげな笑みを浮かべながらフィリップに声をかけていた。
「フィリップよ。この間、ネズミを招き入れたようじゃないか。そのネズミ、どうした?」
「どうしたって……別にどうもしてませんよ」
フィリップは心底面倒くさそうにそう答えた。
フィリップはそもそもこの人に絡まれるのが好きではない。こんな少女のような見た目をして、見た目だけならフィリップよりもずっと幼く見えるのに、これでフィリップよりも年上なのだ。それもかなりの年上だ。見た目と実年齢の差に脳がバグってかかわるのが面倒で仕方ない。
「どうもしていない?わざわざ招き入れたのにか?」
「……ルーインにとって、取るに足らない存在ですよ。どうせ、何もできません」
「フィリップ」
名前を呼ばれたフィリップは、それだけでもゾッとした。あえて顔は見なかったが、声色だけでわかる。今、彼女は強烈な殺意を隠そうともせずに表情に出していることだろう。
「そのようなことは関係ない。こんな地までやってきたくらいだ。ルーインに恨みがあるのだろう。そんな奴らは根絶やしにせねば。いつ何時、どのようなことが起こるかわかったものではない」
女の殺気立った顔はおそらく見れたものじゃないだろう。
しかし、その顔もすぐに元も怪しい笑みに変わった。
「そうなる前に、わしが芽を摘んで来よう。何、後輩の尻ぬぐいをするのが先輩の務めじゃからな」
女の言葉に、フィリップは怪訝そうな顔をする。その顔を向けているのは、女ではない。今、どこにいるかわからないギルバートにだ。
(ほら、言ったろ、ギル。もう君たちは後戻りできないよ)
だけど、フィリップが手を下すその日まで。勝手に殺られることは赦さない。




