第二十八話 二度目の
ギルバートが何者かに連れ去られた。ワープゲートが出現したのはほんのわずかな時間で、さすがのエミリーも逆探知をすることは叶わなかった。
なぜ、ギルバートが連れ去られたのか。
なぜ、エミリーだけ残されたのか。
連れ去ったのは一体、何者なのか。
様々な疑問がエミリーに押し寄せ、エミリーの頭の中は軽いパニック状態になる。
それでも、エミリーは必死に冷静になろうと努めた。深呼吸をし、冷静に状況を整理する。
だけど、やはり情報が少なすぎる。どの疑問も解消されない。
一つだけ言えるとすれば、連れ去ったのは目の前の施設の関係者なのだろうということくらいだ。
もしもこの施設とは無関係の人物が連れ去ったのだとすれば、このタイミングで連れ去る意味が全く分からない。この施設と無関係という可能性はほぼほぼないだろう。
(せめて残痕があれば、調べる手立てもあるんだけど……)
ギルバートを連れ去った方法は明らかに何らかの能力だ。
通常、能力には能力自体とそれを使う能力者の情報が組み込まれている。その情報に一つとして同じものはないため、それが残痕として残れば手がかりとなる。
だが、近年ではその情報を漏らさないための道具が開発されている。本来であればまだ正式に認められた道具ではないが、素性を知られたくない悪人などの手に渡ってしまっているのだ。
(ギル、お願い。どうか無事でいて)
無事を祈ることしかできないことが、エミリーには歯がゆかった。
エミリーと怪しげな施設を観察しているときに、何者かによって連れ去られたギルバートは、目の前の人物に鋭い視線を向けていた。
なぜ、ギルバートだけが連れ去られたのか。それはわからない。
ただ、確実なことは、ここは先ほどまで観察していた施設で、やはりこの施設はルーインと関係しているということだけだ。
「ダメじゃないか、ギル」
ギルバートの目の前にいるのは、フィリップだった。前に会ったときと同じように、子どものような無邪気な笑みを浮かべている。
「どうしてエミィを連れてきたんだい?」
「……何か不都合なことでもあるのか?」
「僕は君に宣戦布告をしたはずだ。つまり、君は僕に狙われている。常に危険が付きまとっている。そんな中に、エミィを連れてきて、君に良いことある?」
「俺にとって不都合だと?」
「そうだよ。僕は優しいから、忠告してあげてるんだ」
何を馬鹿なことを、とギルバートは思った。
確かに、エミリーと共にいるということは、エミリーにも危険が及ぶということ。それでなくても、ギルバートとエミリーはルーインを相手にしようとしているのだ。この旅がどれだけ過酷で危険なものかなど、想像に容易い。
ただ、それでも共に行くと決めたのだ。すべては、フィリップを利用しているルーインを潰すため。
あわよくば、フィリップを連れ戻すため。
「忠告なんかいらねぇよ。これは俺たちで決めたことだ」
それに、たとえギルバートが離れようと試みたところで、エミリーがそれを許さない。そうして、エミリーはギルバートを追ってきたのだから。
だから、フィリップの忠告など、何の意味も成さない。
フィリップは、先ほどまで笑みを浮かべていたくせに、面白くないと言うようにつまらなさそうな顔をした。フィリップのこんな顔を見るのは初めてだ。
「ふーん……そっか。じゃあ、精々気をつけるんだね。エミィまで失わないように」
「これ以上、失ってたまるかよ。あいつは何が何でも護る」
ギルバートとフィリップはしばし睨み合った。
だが、すぐにギルバートの後ろに再びワープゲートのようなものが現れて吸い込まれる。
「君が相手にしているのはルーインという化け物だということを、忘れないようにね」
そんな言葉だけが、ギルバートの耳に届いた。




