第二十七話 “闇都市”
朝早くから、エミリーとギルバートは“闇都市”を目指して走っていた。
“闇都市”に近づけば近づくほど、人気がなくなっている。近寄りたがるような人はいるはずもないのだから当たり前だろう。
もっとも、エミリーとギルバートはそんなこと気にもせずに、ただただ走り続けていたが。
「ねぇ、この辺りじゃない?“闇都市”って……」
「そう、だな……」
目の前に広がるのは、鬱蒼と生い茂る木々たち。怪しげな人影も多い。
明らかに怪しげな場所だ。普通の神経なら、絶対に近寄りたくない。
不穏な空気で満ちていて、変な緊張感に包まれる。
「エミィ、俺から離れるなよ」
「う、うん」
言われなくても、エミリーだってこんな不気味な場所で離れる気はない。
「ほ、本当に、ルーインがこんなところに来るのかしら。まさか、こんなところにいる人たちを仲間に率いれるつもり?」
「あるいは、ここに新たな拠点をつくるのか。こんなところに普通の人間は寄りたがらないし、拠点にするには絶好の場所だろう」
確かに、その可能性もありそうだ。この二つなら、そっちの方が可能性としては高い。
「ルーインが来るまでどうするの?まぁ、まだ来るかどうかもわからないんだけど」
「ひとまず、少しでも安全な場所を探すぞ。野宿しかないからな」
二人は恐る恐る歩を進める。
周りには、いかにも悪人ですよというような顔立ちの人たちや、単にホームレスのような人たちがごろごろと転がっている。
「そこの兄ちゃんと姉ちゃん」
その中の一人、下劣な顔をした男が声をかけてきた。
「あんたら、見るからに悪人ではないな。場違いな人間だ」
エミリーとギルバートが足を止めたのを確認して、男は言う。
「こんなところをうろつくのは止した方がいいんじゃねぇか?特に、姉ちゃんの方はな。ここは悪人の巣窟だ。下手すりゃ、襲われっぞ」
「何の目的もなく、こんなところをうろつくわけねぇだろ……行くぞ、エミィ」
「う、うん」
ギルバートは鋭い目つきで男を睨みながらそう言うと、再び歩きだした。
二人は黙って、奥へ奥へと進んでいく。
「ね、ねぇ、ギル。これ以上進むのは危ないんじゃない?この辺にしとこ?」
さっきのことで気分を害したギルバートに、エミリーは恐る恐る言う。
けれど、ギルバートは何も答えずにズカズカとさらに奥へと進んでいく。
「ねぇ、ギルってば」
何度か声をかけた後、エミリーの口がギルバートの手によって塞がれた。ギルバートはエミリーに目配せをしながら、エミリーの口を塞いでいるのとは反対の手で口元に人差し指をたてる。
エミリーが何事かと思っていると、ギルバートが口元に立てていた指で奥の方を指さしてきた。見ろ、ということだろう。エミリーはそちらに目を向ける。
「……何、あれ」
エミリーの視線の先には、何やら真新しそうな怪しげな施設があった。おおよそ、このジャングルのような場所に建てられるはずもないそれに、ギルバートの手が離れたエミリーの口から言葉が漏れる。
──────ルーインが次に狙っているのが、ここから二百キロ離れたところにある、通称“闇都市”
まさか、本当にルーインがここに?
いや、断定するのはまだ早い。たとえルーインだったとしても、何が目的かわからなければ、下手に近づくこともできない。
ひとまず、二人は草木に紛れて離れたところからそれを観察することにした。
だが──────……
「っ……!」
「ギル……!?」
突然、ギルバートの後ろにワープゲートのようなものが現れた。それはギルバートだけを呑み込み、エミリーだけをその場に残してあっという間に消え去る。
「どういうことなの……?」
なぜ、ギルバートだけが連れ去られたのか。
これは、誰の仕業なのだろうか。
様々な謎だけが、エミリーに残された。




