第二十六話 噂話だけど
──────君たち、戦いながら旅をしているなら当然知っているだろう?闇組織、ルーインのこと
「それは……もちろん」
知っている、なんてものではないが。まさか、こんなところでルーインの話が出てくるとは、エミリーもギルバートも思ってはいなかった。
何せ、ルーインは謎が多い組織だ。そうそう情報など入ってくるものではない。
だけど、アーネストはそのルーインについての噂話をし始めた。
「そのルーインが次に狙っているのが、ここから二百キロ離れたところにある、通称“闇都市”」
“闇都市”とは、ここから二百キロ離れたところにある、地図上からは消された表向きには亡き国。
その実態は、ありとあらゆる種類の悪党の巣窟だ。それも、とんでもない重罪人ばかりだと言う。
そんなやつらがいつしか大量にその地に集まり、“闇都市”という異名がつけられた後に地図上から消えていった。
地図上から消えたのは今から五十年も前の話で、エミリーやギルバートも噂には聞いていたが、まさか本当に実在しているとは思っていなかった。
「目的は何かわからないし、何より噂話だ。完全に信用できる話でもない。仮に本当の話だったとしても、それがルーイン全体で動いているのか、一部の者だけで動いているのかもわからない」
そう、これはあくまで噂話。全部間違っているかもしれない。
だけど、何の手がかりもなかった中で、やっと手に入れた情報だ。無視するわけにもいかない。
「とまぁ、そんな話だが……役に立ったかい?もし他に欲しい情報があれば──────……」
「いえ、とても貴重な情報をありがとうございました」
エミリーがアーネストの言葉を遮り、礼を言った。
これ以上ない報酬だ。これ以上を求めるなどとんでもない。
「それでは、私たちはそろそろ旅の方に戻りますので」
情報を得たからには、一刻も早くその場所へと向かいたかった。
「あ、待ってください!」
エミリーとギルバートが立ち去ろうとしたとき、メリッサが引き留めた。
「あの、これ……あまり多くないですけど、護衛とネックレスを取り返してくださったお礼です」
そう言って、メリッサはお金の入った封筒を差し出してきた。
「ありがとうございます。旅の中で役立てさせていただきますね」
エミリーは封筒を受け取り、今度こそ二人はバルフォア家を出ていった。
「お二人とも、ご武運を──────……」
メリッサは、エミリーとギルバートの姿を思い浮かべながら、祈りを捧げた。
まだ昼ということで、まぁそうでなくてもそうするのだろうが、エミリーとギルバートは“闇都市”を目指して跳ぶように走っていた。
“闇都市”まではかなり距離がある。できるだけ早く着けるよう、急いでいるのだ。
何しろ、ルーインがいつそこを狙うのかもわかっていない。単なる噂ならそれでいいのだが。
もし、これが本当の話なら、被害が出る前に着いておきたい。どんな重罪人が殺られようが、誰かが殺されるのは見過ごすわけにはいかない。
もちろん、ルーインと対面して、できるなら情報を得たいという気持ちのほうが勝ってはいるが。
まだルーインを倒せるほどの力がない二人は、とにかく何か情報を得たいのだ。どんなことでも構わない。
「ねぇ、ギル。ルーインと戦うことになったらどうするの?私たち二人じゃ、負けるのが目に見えている」
負けるどころか、殺されてしまうだろう。
「どのみち、ルーインと会っちまったら戦いは避けられねぇだろ。全力で戦うまでだ」
ギルバートは前を見据えながら、力強く答える。
「でも……」
反論しようとしたエミリーだが、会ってしまえば戦うしかないことは明確なので、口を閉ざした。
二百キロはさすがに一日では行けないので、夜になると先に進みたい気持ちを抑えて、エミリーの造る小屋で休んだ。
休んだ、といっても体は動かしていた。戦いに備えて、少しでも強くなりたいから。
もちろん、“闇都市”に着くまでにそう強くはなれないだろうが、それでもやるのとやらないのとでは大きく違ってくる。
今日のペースで進めば、明日の夕方には“闇都市”に着くだろう。一体、何が待ち構えているのだろうか。
待ち構えていなければ、それはそれで問題はないのだが。それでも、しばらくはその付近にいなければならないだろう。
しばらく待てば、ルーインが姿を現すかもしれないから。




