第二十五話 思ってもみなかった報酬
無事にネックレスを取り返し、次の日は何事もなくバルフォア家へと着いた。
「エミリーさん、ギルバートさん。お二人のおかげで、無事にこのネックレスをバルフォア家に返しに来ることができました。心から、感謝いたします」
メリッサは、バルフォア家の前で、そう深々と頭を下げた。
「頭を上げてください、メリッサさん。私たちは当然のことをしたまでです」
そんなメリッサに対し、慌ててエミリーはそう答えた。
「あの、お二人も私と一緒に中へ入っていただけませんか?バルフォア家の方々にもご紹介したいですし……報酬もまだ支払っていませんから」
「え、でも──────……」
「私一人ではネックレスを返しに来ることはできませんでした。ですから、ちゃんとご紹介したいのです」
熱い視線でそう言われると、断ることもできない。
とはいえ、無関係の人間が貴族に関わっていいものか躊躇われる。エミリーは少しの間、うーんと唸る。
「……わかりました。それでは、お言葉に甘えて」
そして、ギルバートには目で合図して、エミリーはそう答えた。
ギルバートは少し不服そうではあるが、仕方がないと割りきっているようだ。
「では、参りましょう」
メリッサに導かれるまま、エミリーとギルバートはバルフォア家の敷地内へと足を踏み入れた。
バルフォア家の屋敷の大きな扉の前に、この家の使用人らしき少し年老いた男性が立っていた。
「お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください。当主さまがお待ちでございます」
そう男性は言い、扉を開けた。
メリッサ、エミリー、ギルバートは、促されるままに中へと歩みを進める。
「お久しぶりでございます、アーネスト様。お元気そうで、何よりでございます」
「頭を上げたまえ、メリッサ殿。そう固くなることはない」
深々と頭を下げるメリッサに対し、アーネストと呼ばれたダンディーな男性、バルフォア家の当主は、穏やかな口調で答えた。
「アーネスト様、無事に水晶のネックレスをお返しに参りました」
メリッサは頭をあげると、長方形の箱に入れたネックレスを開けて見せた。
「わざわざ返しに来なくとも、そのまま持っていても構わないといったのに……」
「そういうわけにはまいりません!これはバルフォア家の家宝でできているのですから、私のような者が持つにはふさわしくない物」
「わかった、わかった。ならば、受け取ろう」
メリッサの勢いに負けたアーネストは、そばにいた使用人に、メリッサの持つネックレスを回収させた。
「……ところで、そちらのお二人は?」
ネックレスの回収後、アーネストはエミリーとギルバートに目をやって、メリッサに訊いた。
「お二人は、あのネックレスをここまで無事に運ぶために私の護衛をしてくださった、エミリーさんとギルバートさんです」
メリッサはそう答えた。
「ほぅ、それはわざわざ……私からも感謝する」
「いえいえ、当然のことをしたまでですので……お気になさらず」
アーネストが頭を下げるものだから、エミリーは焦ってしまう。
そもそも、偏見かもしれないが、貴族の割に親しみやすくて、メリッサとのやり取りにエミリーは少し呆気に取られていたくらいだ。このような人ならば、メリッサが危険でもネックレスを返そうとした気持ちがよくわかる。
「私からも何かお返しをしたいのだが」
「いえいえ、そんな……!本当に、気になさらないでください」
きっと、このような人がいるから、この国は賑やかで明るいのだろう、なんて呑気に考えている場合ではなかった。アーネストの申し出に、エミリーは両手をブンブンと振る。
親しみやすいことはいいことだと思うが、あまりに丁寧に接せられると、立場が違い過ぎてドギマギしてしまう。
「そう言わずに。お金や高価なものが気が重いのなら、他のものでも構わない。何か欲しいものとか……二人は何をしているのだ?」
「えっと……旅のようなものをしていますけど……」
「ならば、何か欲しい情報とかは?こういう立場だと、いろいろな情報が入ってくるものだ。何か必要な情報などがあれば教えるが……」
「ええっと……」
何かしなければ気が済まなさそうなアーネストに対し、エミリーは困ったような笑みを浮かべる。
すると、今まで黙っていたギルバートが口を開いた。
「俺たちは力をつけたい。どうしても、倒したいやつらがいるんだ。何かそういったことで情報はないか?」
貴族のバルフォア家、当主であるアーネストに対して、気を遣うとかいうことをまったくせずに、ギルバートは訊いた。物怖じしないというか何というか、エミリーとしてはドキドキだった。
だが、アーネストはまったく気にすることなどなく、顎に手を当てて考え始めた。
「うーん、力か……そういうことはわからんが、噂程度の不穏な話なら聞いたことがある」
「不穏な噂?」
「あぁ。君たち、戦いながら旅をしているなら当然知っているだろう?あの闇組織、ルーインのこと」
エミリーとギルバートは、思ってもみない言葉に息を呑んだ。




