第二十三話 盗まれたネックレス
エミリーたちのいる場所からバルフォア家までは、そこそこ距離があった。
メリッサによると、ここから一日はかかる場所らしい。そんな場所まで一人でネックレスを運ぶのは確かに危険だろう。護衛を引き受けてよかったと、エミリーは感じた。
「まぁ、とりあえず行けるところまで行っちゃいましょう」
エミリーがそう言うと、三人はバルフォア家に向けて歩き始めた。
エミリーとメリッサは楽しそうに話しながら歩いているが、ギルバートはその二人の後ろ姿を見ながら、少々不満そうな顔で歩いている。
エミリーを諦めさせる術がなかったギルバートは渋々この護衛を引き受けたわけなのだから、当然のことといえばそうかもしれないが。それにしたって、もう少しその感情は見えないようにしてほしいと思うものだ。
何にせよ、引き受けたからにはしっかり全うしなければならない。
ギルバートは不満そうな顔をしつつも、辺りを警戒しながら二人の後ろを歩いていた。
「……ギル、顔怖いよ?」
ふと後ろに目をやったエミリーは、眉を寄せてそう言った。
「誰も近づけさせねぇためだよ。この方が手っ取り早いだろ」
ギルバートの返答に、エミリーは何も答えず、またメリッサと話し始めた。
「ギルバートさん、やっぱり怒ってるんでしょうか?」
「気にしないでください。メリッサさんのせいじゃないですし」
というよりも自分のせいだと内心思いながらエミリーは答えた。
だから、多少の態度の悪さには目を瞑ろう。そう、エミリーが悪いのだから。
「大丈夫です。ギルはちゃんとやることはやりますから。心強い護衛です」
それでも、ギルバートが昔の感じに戻ってきたことが実感できて、エミリーは嬉しいのだ。
だから、笑顔でメリッサにそう伝えるのだ。
心配いらない。ちゃんと自分がよく知るギルバートがついているのだから、と。
暗くなり、ある程度進んだので、今日はもう休むことにした。
さすがにメリッサがいるので、ちゃんと宿に泊まった。というか、メリッサが護衛してもらっているからとお金を出してくれた。
エミリーとメリッサは同じ部屋、その右隣の部屋にギルバートが泊まることになった。
「ギル、メリッサさんがごはん食べに行こうって」
「ん、今行く」
部屋に顔を出したエミリーにそう答え、ギルバートは最低限の武器を隠し持って部屋を出た。
「どこに食べに行くんだ?」
「メリッサさんのおすすめのお店があるんだって」
そう話しながら、先に下で待っているメリッサのもとへと向かった。
「お待たせしました」
合流した三人は、そのまま夕御飯を食べに向かった。
「……あら?」
「どうかしましたか?」
夕御飯を食べ終え、宿へと帰っている途中、メリッサが立ち止まり、何やら少し慌てていた。
「ないんです、あのネックレスが……!どこかに落としたのかしら……」
「落ち着いてください。とにかく、来た道を引き返していきましょう。落としたのなら、その間にあるはずですから」
エミリーがそう促し、三人は来た道を引き返していった。
しかし、お店まで戻ってもネックレスは見つからなかった。もちろん、お店の中にも。
「どうしよう……あれは私のものではないのに……」
メリッサはすっかり青ざめていた。
「ここまでになかったということは、誰かに盗まれたのかしら……でも、私もギルもずっとメリッサさんを見ていたけれど、誰も接触してきた人はいなかったし……」
「接触してきたとは限らねぇだろ」
ぶつぶつと状況を整理しているエミリーに対し、ギルバートはそう言った。
「どういうこと?」
エミリーは首を傾げる。
「たとえば、離れた場所から物を盗る能力を持ったやつがいたとか、そういうことは考えられるだろ。ネックレスは首にかけていたわけだし、目に見える状況だったからな。そういう能力を持ったやつがいれば、盗るのは簡単だろ」
ギルバートの言葉にエミリーは、はっとした。
「そっか……迂闊だった。誰が狙ってるかわからないってことは、どんな能力者が狙ってるかわからないってことだもんね。でも、じゃあどうするの?どうやって盗んだ犯人を探すの?」
「恐らく、盗ったのはこの店に来ていた客だ。怪しい人間の顔は覚えてる。俺たちの様子をチラチラとうかがってたやつがいた。多分、そいつに間違いないだろう。ここにいたのは一人だが、恐らく仲間もいる」
「さすがギル。そこまでわかれば十分だわ。さっそく、探しにいきましょう。メリッサさんは、先に宿に戻っていてください。ここから先は危険ですから」
エミリーはそう言い残し、ギルバートと共に、犯人のもとへと走り出した。




