第二十二話 護衛の依頼
言い争っている現場に割って入ったエミリーは、好戦的な笑みを浮かべながら立っていた。
男三人は、それでも、相手は所詮女だと高を括っていた。
「はっ、どんな能力持ってるかは知らねぇが、それでも俺ら三人とお前一人で勝算はあるのか?」
男のうちの一人がそう言い、三人が顔を見合わせて勝ち誇った笑みを浮かべながら、エミリーに襲いかかってきた。
「言ったでしょ?逃げた方がいいって」
エミリーはその場を一歩も動かずに、呆れたようにそう言った。
「がっ!」
「ぐっ!」
「ぐあっ!」
男三人はそれぞれ悲鳴をあげながら、吹っ飛んでいった。
「……ギル、もうちょっと手加減してあげてもよかったんじゃない?」
三人を吹っ飛ばした、エミリーの前に立っているギルバートに、若干眉を寄せてエミリーは言った。
「手加減なんか俺がすると思うか?これでも、一般人相手だから弱めにしたつもりだぜ?」
能力も使ってないしな、というギルバートの返答に、エミリーは小さくため息をついた。
ギルバートはこういう性格だ。幼なじみとして、エミリーはよく知っている。
だから、エミリーはそれ以上は何も言わずに女性の前に立ち、声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「え?……あぁ、大丈夫です。ありがとうございます。本当に助かりました」
エミリーとギルバートのやり取りに、女性はポカンとしていたが、声をかけられて現実に戻ってきた。
「当然のことをしたまでですよ。それじゃ、お気をつけて」
エミリーが笑顔でそう言い、ギルバートと共に立ち去ろうとしたときだった。
「あ、待ってください!」
女性が二人を呼び止めたのだ。
「あの、助けてもらったのにこんなことを言うのは差し出がましいのですが……もしよろしければ、私の護衛をしていただけませんか?」
エミリーとギルバートは助けた女性に連れられて、近くのカフェに入った。
「で、護衛というのは?」
エミリーは一口、カップに口をつけてからそう訊いた。
「はい。実は、この国の貴族、バルフォア家に代々伝わる水晶があるのですが」
そう言って、彼女はネックレスを外してエミリーとギルバートの方に向けて置いた。
「このネックレスについているのはその水晶の欠片です」
「欠片?」
「はい。水晶は数百年前の戦争によって砕け散っていて、今はこのようにしていくつか作りかえられています」
砕け散り、様々なものに形を変えた水晶の一つをこの女性が持っており、さっきもこれを狙われたのだと言う。
「あの、あなたはどうしてこれを?」
エミリーは一番の疑問を口にした。
「もともと、私の姉が持っていたんです。私の姉がバルフォア家に嫁いだ際に受け取った品なんです。でも、姉は五年前に病に倒れて……その後、私がこれを譲り受けたんです」
「そうなんですか」
とにかく、この女性にとって姉の形見であり、バルフォア家にとっては家宝。大事なものには違いない。
これを盗られるようなことがあれば、この女性はバルフォア家にも亡くなった姉にも面目が立たない。
女性は、バルフォア家の家宝の一つをこのまま持っているのは危険だと、返しに行こうとしていたところだったらしい。
そんなとき、エミリーとギルバートが助けてくれたので、護衛を頼んできたのだ。
「もちろん、報酬は差し上げます。助けていただいたお礼も」
エミリーは、うーん、と考えてはいたが、やがて明るい顔で答えた。
「事情はわかりました。お引き受けしますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ちょっと待て」
エミリーの答えに嬉しそうに身を乗り出した女性だが、今まで黙っていたギルバートの言葉に、少し顔がひきつった。
ギルバートはといえば、待てと言うなりエミリーに小声で反論した。
「こんなこと引き受けてどうすんだよ」
「こんなことって……困ってるみたいだし、いいじゃない」
「馬鹿か。下手に俺たちに関わらせて危険な目に遭わせたらどうする?」
「大丈夫よ。こんなところにやつらは現れたりしないわ」
「何でそう言い切れるんだよ」
「そんな気がするだけよ。とにかく、悪い話じゃないんだし……ほら、旅を続けるためにはお金も少しは稼がなきゃでしょ?」
しばらく言い合っていた二人だが、ギルバートの方が諦めた。
何を言ったところで、エミリーを諦めさせることができないことは、ギルバートはよく知っている。これ以上の言い合いは無駄だ。
「旅をされているんですか?」
二人のぼそぼそとした言い合いの中での言葉に、女性は興味を示した。
「えっと、まぁ、そうですね。宛はないんですけど」
エミリーは女性の方に向き直り、そう答えた。
「そうなんですね。だからお強いんですね」
「あぁ、まぁ……」
説明をすると長くなるからそう言うことにしておこうと、エミリーは愛想笑いを浮かべた。
「あ、まだ名前言ってなかったですよね。私はエミリー、こっちはギルバート。護衛させてもらいますので、短い間ですがよろしくお願いします」
「私はメリッサです。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、メリッサのバルフォア家までの護衛が始まった。




