第二十一話 些細なことだけど
エミリーとギルバートは宛があるわけではないので、ただ歩き続けながら、ときには力をつけるために二人で模擬戦闘を行っていた。
エミリーとギルバートの力関係はほとんど互角。能力を使わないなら、幾分かエミリーの方が強いかもしれない。
エミリーは能力よりも自分の力に頼るタイプで、体術、武術に秀でている。
一方で、ギルバートはもちろん鍛えてはいるが、どちらかと言えば能力で相手を蹴散らすタイプだ。
二人は国で戦闘部隊の戦闘員として働いていた頃、国のトップ十位以内に入ると言われていた。若い世代では最も強いとさえ言われていた。
だけど、それはあくまで国の中での話だ。外に出ればもっと強い者はたくさんいる。エミリーとギルバートだって、無敵なわけではない。
闇組織、ルーインは強い。二人だけでは敵うはずもない。
それでも、無謀にも二人はたった二人で相手にしようとしている。
それは別に、この世界のためではない。自分たちのためだ。
フィリップを連れ戻す。救い出す。
ただそれだけのために、無謀な戦いに、旅に、赴いている。
小国も抜け、新たな国にエミリーとギルバートはたどり着いた。
ここは賑やかな国で、さっきまでの小国とは全然違った雰囲気だ。
「ねぇ、どこかでごはん食べようよ」
「そうだな。最近、大したもん食ってなかったし」
というわけで、二人は自分たちの国を出てから久しぶりに、まともな食事を摂ることにした。
とはいえ、節約はしたいのでなるべく安い店で済ませることにする。
「あたりまえだけど、ルーインに関する情報は全然ないね」
エミリーはちょっと遅めの朝ごはん、サンドイッチを食べながら言った。
「あぁ、そうだな。まぁ、気長に行くしかねぇだろ……って言っても、こう情報がねぇとどうしようもねぇからな」
何の情報もないと、どこへ行けばいいのかも何もわからない。
でも、そんな簡単に情報を得られるのなら、あんなにも国が滅茶苦茶になることもなかったし、何より、とっくの昔にアジトぐらいわかってもいいはずだ。
ルーインは本当に謎が多すぎる。まるで、謎が謎を呼んでいるかのようだ。
「でも、フィルがギルに宣戦布告したってことは、そのうちフィルの方から現れる……ってことよね?」
エミリーの言う通り。
二人がどこへ向かおうが、必ずどこかでフィリップの方から姿を現すはずだ。それが、一人なのか複数人なのかはわからないけれど、どのみちフィリップは他の人に邪魔をさせる気はないだろう。少なくとも、個人的なギルバートとの戦いにおいては。
ただ、それを待っているだけでは、フィリップを連れ戻すどころか負けてしまう。
突然現れれば、瞬発力や咄嗟の判断力が必要不可欠だ。
エミリーもギルバートも、元戦闘部隊の戦闘員として、それなりの対応力は持っている。そういう相手との戦闘経験は少なくはない。
でも、ほとんど平和なこの時代に、戦闘が起こることがほとんどなかった。戦闘部隊は飾りかと思うほど、大した仕事がなかった。
だからこそ、平和ボケをしていたのだ。そうして、そこを狙われた。
誰かのせい、とも言い難いが、最終的にはやはり、一般論として戦闘を起こした者が悪となる。
本当にそれが正しいのかどうかはわからないが、でも、どんな理由があろうと関係のない人たちを巻き込むのは、やはり悪だとは思ってしまう。
「ルーインは結局のところ、何が目的なんだろ……」
エミリーはそう呟いていた。
ルーインは反社会勢力である、ということはわかるのだが、何をしたいのか、何を目指しているのかは全くわからない。
「何が目的だろうが知ったこっちゃねぇ。フィルを連れ戻すのを邪魔すんなら、ぶっつぶすまでだ」
エミリーの呟きに対し、ギルバートはそう答えた。
ギルバートの答えにエミリーは少し呆気にとられていたが、やがて、ふっ、と笑った。
(何か、やっとギルらしさを感じられた気がする)
そんな些細なことが、エミリーにはとても嬉しいのだ。
朝食を食べ終え、エミリーとギルバートは目的もなく街を歩いていた。
そんなとき、細い路地で何やら言い争う声が聞こえてきた。
「やめてくださいっ!これは渡せないと何度も言っているじゃないですか!」
「こっちも何度も言ってるだろ?力ずくでも奪ってやるって」
「こっちは男が三人。女のお前が一人で勝てると思うか?」
「諦めて、それを寄越しな」
「嫌です!」
「その人、嫌がってるじゃない。男三人で女一人相手に何してるの?」
エミリーは音もなく男三人の背後に立ち、そう言った。
「な、何だ、お前!?」
「今のうちに逃げた方が身のためだと思うけど?」
エミリーは好戦的な笑みを浮かべながら、相手が驚いていることなど気にせずに言った。
困っている人がいれば助ける。
元戦闘部隊として、それぐらいは当然のことだ。




