第十九話 最悪の再会
エミリーは、ギルバートが国を出ていってしまったことに対する想いを吐き出してから訊いた。
でも、根本的なことはまだ不明なままだ。
「ねぇ、ギル。どうして国を出ていったの?一区で、何かあったのよね?」
「っ……!」
エミリーの問いに、ギルバートは顔をしかめる。
だけど、もう話さない理由はないと、小さく息を吸って言った。
「あのとき、俺は連れ去られたんだ。闇組織、ルーインに。そして──────……」
そこで言葉を区切って、もっとも言い出しにくいことを口にした。
「そして、そこでフィルに会った」
一区での行方不明者の捜索中、突然うしろから何者かに薬を嗅がされ、どこかに連れ去られてしまった。
目が覚めたとき、ギルバートは椅子に縛り付けられていて、身動きがとれなかった。
一体、何が起きたのかを頭の中で整理しているとき、目の前の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「やぁ、久しぶりだね。会えて嬉しいよ、ギル」
その声に、姿に、ギルバートは驚きを通り越して、恐怖を感じた。
「は?何で、お前が……」
ギルバートの顔は、みるみる青ざめる。あたりまえだ。この世に存在するはずのない人物が、目の前に立っているのだから。
そして、これが夢でないことはわかりきっているのだから。
「何でって?それはね──────……」
無邪気な子どものような笑顔を向けてギルバートに近づき、ギルバートの頬に手を当ててその男、フィリップは言った。
「ルーインのボスが、僕を生き返らせてくれたからだよ」
ギルバートは顔を強ばらせ、フィリップの言葉を聞く。
「君を連れ去ったのは、僕が頼んだんだ。君に伝えておかなくちゃと思って。僕はこれから、ルーインのために戦う。これは宣戦布告だよ、ギル。これから僕と君は敵になる」
フィリップの言葉を、ギルバートはうまく飲み込めなかった。突然連れ去られて、目の前には死んだはずの人間がいて、そして訳も分からない宣戦布告をされる。その一連のことをすべて飲み込めという方が無理な話だ。
だけど、フィリップに対して頭はフル回転させていた。
これは本当にフィリップだろうか。
姿はもちろんフィリップに間違いはないが、中身がまるで違う。
生き返らされたのと同時に、洗脳されたのかもしれない。無理矢理にでもルーインの仲間になってもらうために。
何にせよ、今のフィリップはギルバートのよく知るフィリップではない。
「宣戦布告って……これから何をするつもりだ、フィル」
ギルバートは鋭い目つきでフィリップに訊く。
「それはまだわからないよ。僕はただ、指示に従うだけだ。あぁ、でも、君に宣戦布告したのは僕の勝手だよ。ルーインは関係ない」
それならば、ただルーインの指示に従うという言葉に矛盾が生じるのではないだろうか。
ルーインの指示に従うだけなら、ギルバートは何も関係ない。それは、フィリップ自身が今、口にした。
フィリップにも何か目的があるのではないか。
そうでなければ、ギルバートにわざわざ会い、宣戦布告をする意味などどこにもない。
意味が分からない。けれど、聞いたところで何も答えてなどくれないだろう。
それならば、今は他の情報を得ることに集中した方がいい。そう考えて、ギルバートは深堀することは諦めた。
「──────……とりあえず、覚えておく。けど、何で俺は今、拘束されてるんだ?話を聞くからに、今は何もするつもりがないってことだろ?」
「あぁ、それはね、僕が頼んだことじゃないんだ。さっきも言ったけど、僕はここに君を連れてくるように仲間に頼んだだけなんだ。僕は君を拘束するつもりはなかった。仲間が手荒な真似をしてごめんよ」
つまり、フィリップの仲間はギルバートを捕らえておく必要があったというわけか。
まぁ、ギルバートはルーインの人間ではないのだから、妥当な対応とも言えるが。はたしてここまでガチガチに拘束する必要はあるだろうか。
「もう僕からは話すことはないし、今すぐにでもそれを外して、君を帰すよ」
フィリップは工具を手にして、笑ってそう言った。
フィリップに拘束を解かれたギルバートは、拘束されていた違和感を感じながらも立ち上がった。
「ギル、僕は近いうちに君に会えることを願っているよ」
無邪気な笑顔で言われて、ギルバートは背筋が凍る思いだったが、冷静さを保って答えた。
「てめぇが敵になるってんなら、俺は全力でぶつかる。そんでもって、てめぇを正気に戻らせる」
本当ならば、今ここでぶん殴って正気に戻らせたい。
だけど、今はその時ではないから、我慢する。
確固たる決意を胸に答えるギルバートに対し、フィリップは満足げな笑みを浮かべていた。
帰り道、ギルバートはさっきまでのやり取りを思い出して、胸が潰されるような思いだった。
フィリップに会えたことは嬉しい。
だけど、こんな再会なら、今後の関係を考えるなら、死んだままでよかった。
(あいつは俺が止める。何がなんでも……!)
そのために、何もかもを捨てるとギルバートは心に決めた。




