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世界は哀に溢れている  作者: 衣月美優
第一部 もう戻れない、戻らない日々
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第一話 戦場、消えゆく命たち


『一区壊滅。生存確認不可』

『二区半壊。救助要請を』

『第二戦闘部隊は三区、四区へ』

『こちら十区。敵の襲撃により第八戦闘部隊が壊滅状態に』


 町中のアナウンスがワンワンと鳴り響く。


 この一週間、巨大な闇組織であるルーインの襲撃をこの国は受け続けている。被害は甚大で、死傷者は国民の半分にも上っている。こんな被害は数百年ぶりだ。

 戦闘部隊が必死で応戦しているが、相手は相当の強者。そう簡単には倒れてくれない。数だって半端じゃない。


 ルーインはここ数年でできた闇組織であり、まだまだ謎が多い。

 わかっていることは、とんでもない強者揃いであるということと、この世界に何らかの不満や恨みなどを持った者たちの集まりであるということ。数年でできたにしてはわりと巨大な組織で、手に追えないといったところだ。何せ、拠点がどこかも、リーダーが誰かもわからないのだから。所属している者だって、ほとんど把握されていない。

 だからこそ、世界的にこの闇組織の存在は知れ渡っており、なおかつ討伐対象となっている。


 そんなルーインに攻められたこの国は、中心部はまだ大丈夫だが、それ以外はもう壊滅状態だ。


 中心部には数々の死傷者が運ばれてきていた。もちろん、その地その地には多くの行方不明者もいるのだが。行方不明者を今は探すことはできない。敵の脅威が去らなければ。

 それでなくても、少しずつ敵は中心部に近づいてきている。今そんなことをしても、さらなる犠牲者を生むだけだ。


 十九歳となったエミリーは、治癒能力を持っているが故に、中心部にある救護のために開放している学校の体育館で忙しく人命救助をしていた。

 本当は、エミリーは戦闘部隊に属しているのだが、あまりにも救護人が少ないので応援としてここにいるのだ。特に、重傷者の治療をしている。


 重傷者の治療はもちろん容易なことではない。運ばれてくるのが遅すぎて、もう手遅れということの方が多い。

 エミリーも多くの人の死を目の当たりにした。その度に心を痛めた。

 だけど、すぐに気持ちを切り替える。多くのまだある命を助けるために。


「死傷者が増える一方だな。敵は昨日には六区までやって来たって」

「マジかよ。ここもそろそろヤバイんじゃ……?」


 そんな話がエミリーの耳に入ってきた。

 途端に、エミリーの顔が青ざめる。


「六区が……!?」


 六区はエミリーたちの地元だ。

 ルーインがこの国を攻めてきたとき、エミリーは仕事場にいた。しばらくは戦闘部隊として戦いに出ていたが、三日ほどでここに派遣されたのだ。

 だから、自分の家族がどうしていたのかは知らない。ここにもまだ来ていない。


 交通手段がない今、六区からここまで来ようと思ったら少なくとも三日はかかるだろう。今は戦場だからもっとかかるかも。

 しかも、六区に避難勧告が出されたのは三日前。ここまで来るにはギリギリか。


 それに、六区の周りは今はほとんど戦場だ。ここに来るまでにも少なからず戦場の近くを通らなければならない。

 無事にここまで来てくれればいいのだが。


「エミリーちゃん……」

「おばさん……!」


 そんなふうに思っていたところに、ギルバートの両親とその二人に支えられているエミリーの母が現れた。

 声を聞いて安心したのも束の間。エミリーの母のおびただしいほどの傷と出血量に、エミリーは慌てて三人に駆け寄る。


「お母さん、ひどい怪我!」

「ここに来るまでに、敵が現れてね……すぐに戦闘部隊の人が来てくれたから、なんとかここまでやって来たんだけど……っ」


 ギルバートの父がエミリーに説明する。

 エミリーははじめ、支えられている母の怪我の具合しか目に入っていなかったが、よくよく見るとギルバートの両親もひどい怪我だ。それも、ここまでエミリーの母を支えながらよく来れたなと思うほどに。


「三人とも治療するから、はやく横になって!」


 エミリーは命の危機にさらされている三人を見て、そう叫んだ。


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