第十八話 心の声を出すことは
エミリーとギルバートが倒した六人の男たちは周りにいた人たちに任せ、エミリーとギルバートは場所を移した。
二人が去った後すぐに警察が来て、男たちは捕まったらしい。最近よく騒ぎを起こしていて、町の人たちは困っていたらしい。
もっとも、警察が来る前にさっさと移動してしまったエミリーとギルバートがその件について知ることはなかったが。あの場所で話を続けるわけにはいかなかったし、何より二人は他国の元戦闘員。変に大事にしてしまわないためにも、去った方が得策だろう。
そんなことよりも、ギルバートには考えることがあった。
──────どうして、私を一人にするの……っ!
そのエミリーの叫びは、酷くギルバートの中で響き渡った。それは、反芻している今も。
移動中の二人に、会話はなかった。
そして今、二人は人気のない場所で向かい合って座っている。
口を開いたのは、もちろんエミリーの方だった。
「ギル、私もついていくわよ。何がなんでも。言っとくけど、私はギルがそばにいるから頑張って生きてこれたのよ。なのに、勝手にいなくならないでよ……」
エミリーの言葉に、ギルバートは何も答えない。ただ、エミリーから顔を逸らし、地面を見つめている。
そんなギルバートに対し、エミリーは自分の想いを話し続けた。
「私は、あのときギルが言ったことが本心だなんて思ってないよ。だからこそ、本当のことが聞きたくて追いかけてきた。これからもギルと共に生きていきたいから、追いかけてきた」
「……俺はお前に来てほしくなかった。だから、あんなことを言った」
エミリーの言葉に、今度はギルバートが話し始めた。だけど、まだ二人の視線は交わらない。
「お前には、あの国でずっと生きててほしかった。そうやって、幸せになってほしかった」
「ギルがいないのに、幸せになんかなれるわけないっ!」
ギルバートの言葉に、エミリーは声をあげた。
「ギルがいなくなったら、私は一人ぼっちになるじゃない。それなのに、幸せになんてなれるわけないでしょ?ギルがいなかったら、もしかしたら私は命を絶っていたかもしれないのに……!」
ギルバートは顔を歪める。
身勝手だったのだ。エミリーに幸せになってほしいからと、何も訊かずに勝手に行動したこと自体が。
勝手に決めつけて、エミリーの気持ちなんか無視して。そんなことで護っているなんて言えるわけないのに。
エミリーを護るためだとか幸せにするためだとか、それはギルバートの勝手な考えであって、そこにエミリーの意思はどこにもない。ギルバートの身勝手な行動であったからこそ、こうしてエミリーも何もかもを捨ててここまでやって来た。
もう、ギルバートにはエミリーについて来るなとは言えない。
エミリーは覚悟を決めている。それを止める権利は、ギルバートにはない。
だけど、それでも、ギルバートはエミリーに来てほしくない想いを消し去ることはできなかった。
この先に、どんなことが待ち受けているかを、エミリーは知らない。知ってほしくもない。
どうしようもない想いが、ギルバートを縛りつけている。
ギルバートは唇を強く噛み、エミリーはそれを見つめていた。
思えば、エミリーもギルバートも、心の中に溜めているものを吐き出すことは少なかった。
特にエミリーは、弱味を見せまいとする傾向がある。ギルバートはそれをよく知っていたはずなのに、そんなことを気にせず、ただ突っ走ってしまった。
いや、気にせずというよりは、忘れていたのかもしれない。いつだってエミリーは明るく、笑顔でいてくれたから。
いつも、どんなときでも、エミリーは気丈に振る舞う。それに、慣れすぎてしまっていたのかもしれない。
エミリーの心からの叫びなんてほとんど聞いたことがないから、エミリーが本当は何を思っているのか、何を考えているのかなんて、ギルバートには本当の意味ではわかるはずがないのだ。
そして、それはエミリーにとっても同じなのかもしれない。
お互い、付き合いが長いわりに心の内をさらけ出すことはほとんどなかった。付き合いが長いからこそ、だったのかもしれないが。
だからこそ、お互いが思っていることをちゃんと言い合うこと、知ることは大切なのだと、きちんとわかっていなければならない。そうでなければ、こういうことが遅かれ早かれ起こることになるのだから。
だけど、起こってしまってからでも遅くはない。今からでも間に合う。
エミリーとギルバート、二人がお互いのことを思うのなら、自分自身の心の内を、黙っていることを話さなければ。
そうして、絆を固くして、もっと先へと進んでいけばいい。
きっと、この先も切れることはない絆なのだから。幼なじみという、いつまでも変わることはないであろう関係であるはずだから。
だから、話そう。すべてを。




