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世界は哀に溢れている  作者: 衣月美優
第一部 もう戻れない、戻らない日々
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第十四話 突き放された心


 ギルバートの無線を手に取り、エミリーは必死に冷静さを保とうとした。


(落ち着いて。まだ何かあったと決まったわけじゃないわ。たまたま落としたのかもしれないし……)


 なら、どうしてギルバートは戻ってこないのだろうか。ギルバートが捜索していた場所からの帰り道なら、絶対にエミリーのいる場所を通るはずだ。ギルバートと一緒に捜索に向かっていた仲間たちの数は多くないし、見落とすはずもない。

 それに、彼らはエミリーのそばを通ったのだから、仕事は終わっているのだ。なら、ギルバートもここを通らなければおかしい。


 さっき、彼らに訊いておけばよかったと、今更ながらにエミリーは後悔した。

 だけど、今は後悔している場合ではない。考えなければ。


 ギルバートは何故戻ってこないのだろうか。どこかで怪我でもして動けなくなったのだろうか。

 いや、それなら仲間に助けを呼べばいい。そんなに離れて捜索なんてしていなかっただろうから。いくらなんでも叫べば誰か気付くはずだ。


 じゃあ、誰かに連れ去られたのだろうか。

 仮にそうだとして、一体誰が、何の目的で、どうしてギルバートでなければならなかったというのだ。


 だけど、この二択なら、明らかに後者の可能性が高い。

 いや、待て。まだ決めつけるのははやい。他にもまだ可能性はあるだろう。悪い方向に考えてはいけない。もっと良い方向に。


 だけど、そんなこと思い浮かぶはずもなかった。

 この状況で冷静でいられるほど、今のエミリーの心は強くはない。悪い方にしか考えられない。


 無線で他の仲間に連絡をしようか。

 いや、この状況じゃ、話したところで何もできない。相手にされない可能性も大きい。

 でも、このまま戻らなければ、どのみち向こうから連絡が来るだろう。

 どうしようにも、何もしようがない。このまま、待っていることしかできないのだ。


 ギルバートが戻ってくるのが先か、はたまた、仲間から連絡が来るのが先か。

 エミリーとしては、前者が先であることを祈るばかりだ。







 時間にしてみれば十分も経っていないぐらいだろうが、エミリーには途方もない時間に感じた。

 落ち着かない気持ちで待ち続けていると、遠くの方で人影が見えた。

 もちろん、ギルバートだ。やっと戻ってきたのだ。


 嬉しさと安堵で入り雑じった気持ちで、ギルバートに笑顔で、明るく声をかけようとした。

 だけど、だんだん近づいてきて見えたギルバートの表情は重い、というか、フィリップを喪ったときに似ていた。

 一体、何があったというのだろうか。


「ギル……?」


 どうしたものかとエミリーが声をかけるが、ギルバートは心ここにあらずといった状態で、エミリーの声など聞こえていない様子だった。


(これじゃ、まるで──────……)


 三年前に戻ってしまったかのような空気に包まれた。







 さすがに、一区から六区まで距離があるので、ある程度平坦な場所にテントを立てて夜を明かし、朝になってから帰ることになっていた。


 エミリーはテントの中で考え続けていた。さっきのギルバートのことを。

 何か絶望感漂うような、でも、絶望とはまた違うようなあの雰囲気。

 何があったら、あんな雰囲気を纏って戻ってくるというんだ。

 エミリーの心に、不安が募っていった。


 何かよくないことが起こる気がする。起こり始めているというべきか。

 エミリーは眠れるはずもなく、夜が明けるのを待ち続けた。







 それは、六区に帰ってから三日ほど経った夜のことだった。もうほとんどの人が眠っている頃だ。

 ギルバートは必要な荷物を肩に担いで、歩いていた。



「──────……どこに行くの、ギル?」



 そんなギルバートの背後から、エミリーが厳しい声で声をかけた。

 ギルバートは仕方がなく、足を止める。


「……俺は国を出る。戦闘部隊も辞めてきた」

「どうして?だったら、私も一緒に──────……」

「お前は来るな!」


 エミリーは、ビクッと肩を揺らした。

 エミリーには、ギルバートが何を考えているのか、全然理解できなかった。


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