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世界は哀に溢れている  作者: 衣月美優
第一部 もう戻れない、戻らない日々
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第十三話 取り戻しつつある日常、なのに


 闇組織、ルーインによる戦争から約三年の時が経った。

 エミリーもギルバートも二十二歳になり、あの頃よりもずっと大人にはなったと思う。


 あれから二人はようやく落ち着きを取り戻し、一人欠けてはしまったものの、昔と変わらぬ日常を送れるようになってきた。


 まだまだ国のために働かなければいけないということもあって忙しい日々ではあるが、それでもあの頃に比べれば楽にはなったし、休みも多くなった。

 休みの間は基本的に、エミリーもギルバートも一緒に過ごしていた。二人が一緒にいない日なんてないほどに。


 もちろん、お互いラウルを含めた友人などと過ごしたりもするが、ずっと同じ道を辿ってきた二人の友人はお互いが知っている。

 だから、お互いの友人を交えて一緒にいることがほとんどだ。


 エミリーにとってもギルバートにとっても、お互いがなくてはならない存在。昔からずっと一緒にいたのだから、あたりまえのことになっているのだ。

 それに加えて同じ境遇ということもあり、お互いの存在を常に感じていなければ安心できない。言葉にはしないがそういう想いもあるために、そばにいる。


 二人にとってお互いの存在というのは、ある意味、精神安定剤のようなものなのかもしれない。それと断言するのも難しい話ではあるが、それに似た類いであるのは間違いない。

 たぶんこの先も、それが変わることはない。フィリップの死は、エミリーとギルバートに大きく影響しているということだ。


 エミリーとギルバートには、常に不安が付きまとっている。


 もしも相手が急にいなくなってしまったら。

 もしも相手が急に死んでしまったら。


 そんな不安が、ずっと心のどこかにあるのだ。


 母親とギルバートの両親の死を見たエミリーが、フィリップの死を見たギルバートが、そんな不安を持たずにはいられるわけがない。

 お互いが誰かの死を目の前で見ている。不安に駆られるのも無理はない。

 身近な人を喪えば喪うほど、その不安は、恐怖は、大きくなるものだろう。


 もちろん、二人とも自分のやり方で、喪った人に対する気持ちの切り替えのようなものは大分できている。

 だけど、この不安感や恐怖感はそれとはまた違った類いのもの。払拭するのは難しい。

 エミリーもギルバートも、払拭することなんてできず、毎日それと戦っているのだ。


 心を強く。それが今の二人が願うことだ。







 身寄りを亡くしたエミリーやギルバートを含めた戦闘部隊の人間は、今はそれぞれの地区ごとの戦闘部隊専用の宿舎で生活している。

 自由度は比較的高く、基本的にしっかり仕事をしていれば、そこでの生活は保証されている。


 ただ、五年以上の契約はできないことになっている。あまり長居されても困るからだ。

 あくまで仮の家。生活が安定してくれば、出ていってもらうのだ。


 エミリーはそろそろ契約更新の時期がやって来るので、今後も契約するか検討中だった。

 多くの人が一年ずつの契約をしていて、一年ごとに更新という形をとっている。エミリーも例外ではない。


 エミリーとしては、そろそろ自立したいと考えてはいるものの、新しい住まいも見つからない。

 戦闘部隊には専用の宿舎が一応は用意されているため、一般人が優先的に住まいを選べるようになっている。

 もちろん、一般人にも戦闘部隊の宿舎と似たようなものはあるのだが、戦闘部隊ほどの設備は整っていない。そのため、優先的に選べるのだ。


(うーん……この時点でまだ住まいが決まってないんじゃ、また更新しないとかなぁ)


 しばらく考えてみたものの、はっきりとした決断を下すことはできず、今日の仕事終わりにギルバートにどうするか聞いてみようということで落ち着いた。







 夕方になり、仕事も終わったので、少し離れたところで仕事をしていたギルバートが戻ってくるのを待っていた。


 今日の仕事は、三年前の戦争でもっとも被害が大きかった一区での行方不明者の捜索だ。いまだに、多くの人が見つかっていない。

 しかも、被害の大きさが大きさだけに、まだほとんど手付かずなのだ。あの惨状のままである。


 そもそも、一区から戦争がはじまったから、ほとんどの人が亡くなっていて、とりあえず、他の地区がもとの状態に戻るまではおいておこうと、国が決めてしまったのだ。

 だから、行方不明者の捜索でしか、一区に人が入ることはなかった。

 もっとも、そろそろ復興作業にも入るらしいが。


 今日の行方不明者の捜索では、誰も発見することはなかった。行方不明者の数がもう少ないということもあるが、全壊の町の中を探すのは困難なのだ。

 歩くのですら大変なのだから、結構な労力を要した。エミリーもヘトヘトだ。


 ギルバートを待ちながら、疲れた体を休めていたのだが、いつまでたってもギルバートは戻ってこない。

 不審に思ったエミリーは、無線でギルバートに連絡した。


「ギル、聞こえる?ギル!」


 返事はない、どころか、少し離れたところから自分の声が聞こえてきた。

 ギルバートの無線が落ちていたのだ。


「どういう、こと……?」


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